由布島

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[エッセイ 500]
由布島

 西表島マングローブ遊覧を終えた私たちは、由布島(ゆぶじま)に渡るため、その対岸までバスでやってきた。ここから向かいの島へは、約400メートルの海峡の浅瀬を、乗り合いの水牛車で渡る。観光客には、目的地よりも、目的地に渡る手段の方により大きな魅力があるようだ。

 集まった客は、各水牛車に分乗させられた。オス牛の引く車には14、5名、メスなら10名ずつである。客車は、沖縄風の屋根の付いた大きなタイヤの二輪車である。私たちの乗った車は、角に赤いリボンの結ばれたメスの引くものだった。定刻になったら、各車一斉に動き出し、海水をかき分けるようにして島を目指した。御者は三線を弾き、島唄を歌って私たちをもてなしてくれた。

 目的地である由布島は、与那良川から流れ出た砂が堆積してできた砂州である。砂州のことを、方言で「ユブ」ということからその名前がついたそうだ。島の面積は0.15平方キロと、日比谷公園より一回り小さい。一番高いところの標高は1.5メートルでほぼ平らに近い。井戸を掘れば真水が出る。島の定住人口は18人。この島で働く多くの人たちは西表島から通勤しているようだ。

 海峡は、トンボロ現象によって浅瀬になっている。干潮時でも完全に干上がることはないが、海水はほとんど引いて徒歩や車でも渡ることができる。この地方は干満の差があまりなく、満潮時でも1メートル程度の深さで牛なら難なく渡ることができる。こんな狭い海峡だが、蚊は西表島から渡ってくることはできず、マラリアはもとから存在していなかった。

 この島のアイドルともいえる水牛は、昭和7年頃に台湾の開拓民とともにやってきた。島は、1969年の台風で壊滅したが、西表正治夫妻の手で再開発がなされた。いまでは、島中が一つの植物園となり、ブーゲンビリアやハイビスカスなど熱帯性の植物で賑わっている。入園料は600円、但し水牛車を利用する場合は全部込みで1,400円となっている。

 いま、水牛は40頭あまりが飼われている。彼らの寿命は約30年、2~3歳から調教を始め、現役で働かされるのは15~20年くらいである。大きな角が特徴である。とくに水を好み、暑い日は一日中池の中にいる。食事は1日に2回、草やサトウキビの葉が主食である。1年に1頭しか出産しない。

 私たちは島の中で道を間違えて、牛を休ませている池のそばにやってきた。係員が寝そべっている牛の頭を膝に乗せて、やさしく撫でてやっていた。牛は甘えてうっとりとしていた。牛もそれなりにストレスを抱えているようだ。

 あの牛たちを見ていて、牛に産まれなくてよかったと思った。これからは、食べてすぐ横になって牛になることのないようくれぐれも気をつけるつもりだ。
(2018年11月14日)