西表島

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[エッセイ 499]
西表島

 西表島(いりおもてじま)へは、石垣島から高速の双胴船で向かった。台風26号の影響で、海は大荒れのはずだった。乗り物酔いの薬まで用意してそれに備えたが、船は東シナ海の荒波を平気で乗り越え、約40分で無事大原港に着いた。ここは、西表島の東の玄関口、仲間川の河口にあたる。

 ここで小型の遊覧船に乗り換え、仲間川のマングローブ遊覧へと向かった。川に入ると、水面は急に静かになった。折からの満潮とも重なって、川の流れはきわめて穏やかである。両岸のマングローブが、水面に覆い被さるように茂っている。木々の緑は、緩やかな斜面を上りながら周辺の山々へと続いている。

 マングローブは、汽水域の水辺に生える木だが、どこまでがマングローブの林でどこからが普通の熱帯雨林なのか全く区別できない。川をさかのぼるとともに、両岸のマングローブ林の様相は少しずつ変化していった。比較的背の低い林や高く伸びた木々、根元のあたりがすっかり水没していたり、泥がむき出しになっているところなど、木の様相や生えている場所の状態も様々である。

 やがて、小さな桟橋が見えてきた。遊覧船がさかのぼる最上流部だそうだ。そのすぐそばに、日本最大のサキシマスオウノキという根っこが板のようにむき出しになっている大木があった。私たちの遊覧は、この木を見物して折り返しとなる。あとは、ひたすら川を下って元の場所まで戻るだけである。

 ところで、マングローブとは、真水と海水が混ざり合う汽水域の水辺に生える木の総称だそうだ。ガイドの説明によると、元来は山の上に生えていたそうだが、他の木々との生存競争に負けてここまで逃げてきたのだという。この仲間川の両岸にあるものは、日本にある7種類のマングローブ全部がみられるそうだ。

 この地方最大の島、西表島は、小豆島の1.9倍もありながら人口は僅か2,400人あまりでしかない。亜熱帯海洋性気候という厳しい気象条件、平地に乏しいという地理的条件、そしてマラリア発生地ということが災いしたようだ。そのマラリアは、1961年に根絶され、いまは人が安心して入れるようになっている。

 島の90%は亜熱帯の自然林、島の80%は国有林、島の全域が西表石垣国立公園、島の大半が自然環境保全地域として自然が大切にまもられている。イリオモテヤマネコ、ヨナクニカラスバトなど、イリオモテ・・と名付けられた固有種がたくさん生息している自然そのものの島である。

 ここ西表島の住居表示は沖縄県八重山郡竹富町○○である。面積にして50分の1、人口では7分1しかいない竹富島の名前を冠した住所である。ある面、それだけ忘れられた島ということだろうか。あるいは、箱入り娘のようにそっと大事にされている地域ということだろうか。
(2018年11月10日)