二宮せせらぎ公園

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[エッセイ 466]
二宮せせらぎ公園

 この季節になると、毎年のように伊勢原の「あやめの里」に出向いていた。ところが、ここ数年手入れが行き届かないのか、荒廃が目立つようになってきた。もともと休耕田を生かそうと始められたあやめの里だったが、手を入れる人が年々減って、とうとう17年度で廃止になるという。

 近在で、どこかいいアヤメ園はないだろうかと探していたら、二宮町の郊外に町立の「せせらぎ公園」という名の水性植物園があることがわかった。地図で見ると、二宮から県道71号線を東名の秦野中井インターに向けて少し走ったところにあるようだ。駐車場の設備はないが、近くにあるザ・ビッグという大型店の好意によりそれを借りられるという。

 日本には、「里山」と並んで「谷戸」という田園風景を形容する言葉がある。“谷戸とは、丘陵地が浸食されて形成された谷状の地形である。また、そのような地形を利用した農業とそれに付随する生態系を指すこともある”。ネットで検索した辞典には、谷戸についてこのような説明があった。この二宮のアヤメ園も、入り口近くの信号には「新西谷戸橋」と表示され、このあたりがそのような地形にあることを暗示している。

 谷戸沿いに、だらだらの坂道を上っていくと、そこはもと山会いの田圃だっただろうということがすぐに理解できる。谷の両側に低い山が迫り、その奥はどん詰まりになっている。谷は東に向かって扇状に開けているが、その縦長のわずかな湿地が水生植物の楽園となっている。花はハスなども植えられてはいるが、大半はハナショウブのようである。

 湿地の中央を流れるせせらぎに沿うように、ジグザグに木道が架けられている。水面をトンボがかすめ、花の間を蝶が舞う。夜になったらホタルの群舞も見られるという。ふと顔を上げると、両側に迫ってくる小山の緑が目にしみてくる。それにしても、大ぶりの花びらは見事である。色合いも、白から青、そして紫から赤へ、それらの色が混じり合って、何十種類にも及ぶ色調を演出している。たまに黄色い花の群落も見られるが、ここでは異端児としか映らない。

 この二宮町営のせせらぎ公園、広さは約8,900平米あるという。両側に山が迫っているので狭く見えるが、逆にそれらを借景と考えると、東京ドームの13,000平米を大きく上回ることになる。植えられているハナショウブは130種類、約1万株に及ぶという。この季節、アジサイやハス、あるいはハンゲショウなども水辺の花として公園全体を盛り上げている。

 二宮といえば吾妻山の菜の花だが、せせらぎ公園ハナショウブも悪くない。そして帰途、再建なった大磯の吉田茂邸に寄ってみるのも一興かもしれない。
(2017年6月17日)