パンジー

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[エッセイ 459]
パンジー

 NHKの朝ドラ、「べっぴんさん」が終わった。このドラマの主人公は「すみれ」と呼ばれていたが、その名前ともお別れということになる。子供のころ、春の足元を象徴する花といえばレンゲとスミレだった。学校へ通う道すがら、男の子といえどもこれらの花にはやさしく接していたようだ。スミレは宝塚歌劇でもおなじみだった。修学旅行の訪問先の一つだった宝塚大劇場での、あの「スミレの花咲くころ」の大合唱は、いまも鮮烈に記憶に残っている。

 そのスミレたちとは、いまでは春になっても接する機会はほとんどない。それに代わって、冬の代表的な花として大役を担っているのが、スミレの改良型であるパンジーである。我が家はもちろん、近所の道端にもたくさん植えられ、およそ半年間にわたって寒さに震える私たちを足元からやさしく慰めてくれる。

 パンジーは、ヨーロッパ原産の、スミレ科スミレ属の一年草である。パンジーの原点は、1800年代に北欧でサンシキスミレ(三色菫)に、ビオラ・ルテアとビオラ・アルタイカなどという種類を掛け合わせて生み出されたものだそうだ。その後さらに交配が重ねられ、1840年代までにはほぼ現在の姿となり、鑑賞植物としての地位が確立されたという。

 日本には、江戸時代には入ってきていたようだが、子供のころそれを見かけたという記憶はない。あるいは、まだ、地方までは普及していなかったかもしれないし、あっても、戦争と食糧難でそれどころではなかったかもしれない。

 パンジーは、寒さに強く暑さに弱いという。そのおため、秋の中ごろから春の終わりあたりまでが見ごろということになる。管理が簡単で病害虫にも強く長持ちする。しかも色柄が豊富であることから冬場の花として、素人園芸家からも幅広く歓迎されている。花の少ない時期に、公園や道端を彩る花として、欠かすことのできない貴重な存在である。
 
 ところで、スミレやパンジーはいろいろな呼び方をされているが、いまひとつ区別がはっきりしない。そこで、諸説を整理してみた。種全体の呼び名はスミレ(菫、violet)、野に咲く小さな紫色の花が原点である。そのスミレの一種であるサンショクスミレ(三色菫、pansy)が、改良が加えられて広くパンジー(pansy)と呼ばれるようになった。そして、パンジーのうち、花径が5センチに満たないものをビオラ(viola)と呼び分けられるようになった。

 パンジーの語源は、フランス語の「パンセ(考える)」という言葉だそうだ。その蕾が下を向いているので、人が頭を垂れて物思いにふける姿から思いついたのだといわれている。花言葉は、「思慮深い」あるいは「私を思って」である。明るく、色彩豊かな花に似合わず、内面はおセンチそのもののようだ。
(2017年4月3日)