ナツメ

イメージ 1

[エッセイ 451]
ナツメ

 外出から帰宅すると、家内が「ご近所の方からナツメをいただいたよ」と台所から紙包みもってきた。「ナツメ」と聞いても、なんのことかすぐには理解できず、抹茶を入れる茶器くらいしか思い浮かべることができなかった。

 その紙包みには、ミニチュアのリンゴのようなものがたくさん入っていた。初めて目にする果実である。ちょっとかじってみたら、やはりリンゴのような歯触りで、味も甘酸っぱかった。「我が家でいただくとしたら、ジャムにするのが一番いいらしいよ」。そういえば、朝食のヨーグルトのお伴に欠かせない梅ジャムは、不作のために少量しか作れず、ぼつぼつ底をつきそうになっていた。

 さっそく、教わった手順でナツメジャム作りを始めた。きれいに洗って細かく刻む。中に種が入っているので、注意しながらそれを取り除く。ミキサーで粉砕すれば簡単だが、機器の準備や後片付けが面倒なので大きめの切れ端は手作業でつぶすことにした。水と砂糖を入れてぐつぐつと煮込む。冷ましてビンに詰めればそれで出来上がりである。

 翌朝、さっそくヨーグルトに混ぜて味わってみた。さらっとしていて薄味だが、両者の酸味が適度に混ざり合い、朝食のお伴としてほどよい加減である。あの、青リンゴにも似た甘酸っぱい新鮮な香りが鼻腔をくすぐる。ところが、皮の切れ端がたくさん混ざっているため、舌にざらざらとあたりカスとなって口の中に残る。最後には、そのカスを別の容器に吐き出さざるを得ない。

 やはり、皮は完全に取り除かないと、せっかくのおいしさが台無しになってしまう。一度ビンに収めてあったナツメジャムを、今度はすり鉢に取り出して徹底的に潰すことにした。ジャムにヌメリがでるまで作業を続けた。それを目の細かな金網のザルで裏ごしした。今度は、きめの細かなとろりとしたジャムに仕上がった。翌朝のヨーグルトはもちろん申し分ないものだった。

 ところで、なんでナツメなどと呼ぶのだろうと思っていたら、その木は夏になって芽を出すので「夏芽」というのだそうだ。ナツメはウメモドキ科の落葉高木で、木材としては堅く、使い込むと色艶が増すので、高級家具の材料として重宝されているようだ。そういえば、茶器のなつめもこの材料で作られており、形もナツメの実に似ているのでそう呼ばれるようになったといわれている。

 ナツメは、生薬や薬膳料理の材料として古くから利用されてきた。もし、それを家庭でやるとしたら、ナツメを煮出してショウガとハチミツを加えた「なつめ茶」や、ナツメを焼酎に一週間程度漬けこんだ「なつめ焼酎」が簡単だそうだ。血行促進や精神安定、あるいは不眠改善に効果があるという。またナツメに再会する機会があったら、次はぜひそうしてみたいと思っている。
(2016年11月7日)