ハス

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[エッセイ 444]
ハス

 久しぶりにハス(蓮)の花を見物した。もう何年も見たことがないのに、なぜかあまりそんなふうには感じられなかった。おそらく、ハスという植物が、日本人の日常生活に深く根ざし、身近な存在になっているためであろう。

 中国には、「蓮は泥より出でて泥に染まらず」という成句があるという。泥の中から生じ、清浄な美しい花を咲かせるハスの姿が、仏の智慧や慈悲を象徴していると考えられていたのだそうだ。そんな由来によるものだろうか、如来像の台座はハスの花(蓮華:れんげ)をかたどった蓮華座であり、寺院の仏前には常花(じょうか)と呼ばれる金色の木製の蓮華が置かれている。

 蓮華座といえば、「蓮華往生」という熟語がある。死後、極楽浄土の蓮華座の上に生まれ変わることをいうそうだ。さらには、「一蓮托生」という熟語もある。結果はどうなろうとも行動や運命を共にするという意味に使われるが、もとは、死後に極楽浄土に往生し、共に同じ蓮華の上に生まれ変わって身を託すということだそうだ。一方、「台無し」という言葉もある。これは、せっかくの仏像も、蓮華の台座がなければ威厳がないということから出たものだそうだ。

 ハスはインド原産で、ハス科ハス属の多年生水生植物である。花が散った後の花托がハチの巣に似ていることからハチスと呼ばれていた。それが、いつの間にか「チ」が抜けてハスといわれるようになったという。ハスの花は早朝に咲き昼には閉じる。わずか4日間の短い命だといわれている。

 その花托はスポンジのように柔らかいが、そこで育まれた種の皮はきわめて堅く中の実を厳重に保護している。1951年に千葉で発見されたハスの種は、弥生時代のものだろうと推測されている。それが、2千年のときを越えて発芽し見事な花を咲かせた。発見者の名を取って大賀ハスと呼ばれている。

 ハスの根であるレンコン(蓮根)は、和食、とくににしめや酢のものには欠かせない存在である。あのシャキシャキ感は何物にも代えがたいものである。根だけでなく、葉、茎、花、はもとより種も食用にでき捨てるところはない。

 ハスは、よくスイレン(睡蓮)と混同されがちだが、両者は元来別物である。ハスの葉や花は水中に立っているが、スイレンのそれは水面に浮かんでいる。ハスの葉は円形で真中に茎がついているが、スイレンの葉は茎の付け根まで切れ目が入っている。などなど、細かく見ると別物であることがよくわかる。

 スイレンには、その花の形やモネの油絵の影響もあってか、洋風のイメージが強い。一方のハスは、仏教との結びつきに加え、レンコン料理の影も重なって、どうしても高齢者向きと見られがちである。その花の扱いやレシピにおいて、若者などもっと幅広く愛される方法はないものだろうか。
(2016年7月18日)