未年

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[エッセイ 412]
未年

 今年の干支は、十二支の8番目に当たる未(ひつじ)である。60年に一度回ってくる十干と十二支の組み合わせでいうと、32番目の乙未(きのとひつじ)にあたる。未は、まだ枝が伸び切らずにいる木のことを意味する。そして、この未年のキャラクターは、五穀豊穣の使いとされるヒツジ(羊)である。

 ヒツジは、ウシ目、ウシ科、ヤギ亜科の一種である。同じヤギ亜科のヤギは木の芽や皮も食べるが、ヒツジは草しか食べない。外敵から身を守るため、とくに聴力と視力に優れ、視野は270~320°もあるらしい。ヒツジはとかく群れたがり、先導者に従う傾向が強いという。ただ、先導者はたまたま先に動いただけということが多く、彼らはただの烏合の衆だともみなされている。

 ヒツジが家畜化されたのは紀元前7千年~6千年とみられている。ただ、肉や乳あるいは皮はヤギに劣るため、その利用は脂肪と毛くらいに限られる。ヒツジは、日本では昔からあまりなじみがなかった。これは、衣類が植物繊維主体であり、食事も肉類をあまり食べなかったためのようだ。

 ヒツジは、2012年時点で、全世界で約10億頭が飼われている。その国別ランキングは、中国の1億8千7百万頭を筆頭に、以下インド、オーストラリア、イラン、ナイジェリア、イギリスそしてニュージーランドの順である。日本では、わずか1万2千8百頭が飼われているにすぎない。

 ヒツジが日本文化になじみが薄いのは、日常使われている言葉を見ても明らかである。手もとの簡便な国語辞典で、羊のつく語句を探してみた。「よう」から始まるものは、溶暗、用意、容易、養育、要因と続き全部で220あまりあるが、「羊」のつくものは、羊羹、羊腸、それに羊毛の3つしかなかった。

 これらのうち、羊羹はその語源がどこにあるのかまったくわからない。そこで調べてみると、中国では羊肉のスープが煮こごりになったものを羊羹というのだとわかった。鎌倉・室町時代のころ、日本から留学した僧侶が、帰国後羊肉の代わりに小豆を使い、小麦粉や葛粉などで蒸し羊羹として作ったのが始まりのようだ。後に、砂糖を加え寒天で固めるいまの形に発展したという。

 ヒツジは褒められるよりけなされることの方がはるかに多い。そんな中で、中国・漢代の書物「春秋繁露」に羊をきわめて好意的に見ている一説がある。「これを捉えても鳴かず、殺しても泣かないのは、義に死するものの類である。子羊が乳を吸うとき必ず母の前にひざまずくのは、礼を知るものの類である。だからこそ羊は祥のごとしというのである」とヒツジのことを称えている。
 

 大の字の上に羊と書くと美という字になる。羊は善や義という字でも主要な位置を占めている。ヒツジはやはり、美しく偉大な生き物なのだろう。
(2015年1月5日)