脂漏性角化症

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[エッセイ 408]
脂漏性角化症

 もう17~8年も前のことになる。目の下3センチばかりのところに、黒いホクロに似たイボのようなものができた。それがだんだん大きくなり、視線を下に向けると視界に入るようになってきた。顔を洗うときなど、そこに手が引っかかって結構邪魔にもなった。そして、顔の印象まで気になりだした。

 そんなある日、頭皮の湿疹治療のために市内の皮膚科を訪れた。「先生、このイボのようなものはなんとかならないでしょうか?」「ああ、簡単だよ」。医師は、液体窒素を脱脂綿に含ませ、「これは皮膚がんになることもあるんだよね」などとつぶやきながらそのイボに当てた。別に痛くもかゆくもなかった。

 それから3日が過ぎた。あのイボ状の出っ張ったものはカサブタのようになり、4日目にはポロリととれた。イボの跡は少しシミのようになったが、触ってみるとつるつるしており、周りの皮膚と何らの違いもなかった。

 あれから長い年月が経った。私の顔には、あのイボ状のものがいくつも現れ、数も少しずつ増えていった。鏡を見るたびに福田赳夫元首相の顔が思い起こされた。「これができている人は長生きするよ」と慰められることもあったが、どう見ても印象はよくない。多少寿命が短くても黒いイボはない方がいい。

 今年に入って間もなく、別の湿疹であの皮膚科を訪れた。ついでに、あのイボたちもとってもらうことにした。医師は、例によって液体窒素でその患部を焼いてくれた。治療費は、保険がきくので数百円が上乗せになるだけだった。10個以上あった黒い突起は、その半分近くを退治することができた。

 しかし、長い年月をかけて成長したイボはしぶとく、生き残るものも多かった。私は、機会を見つけてはその皮膚科に通った。行くたびに、残りの半分くらいはとれるが、あとの半分は生き残った。こうしてなんと通算9回も通った。イボは納得いくところまで退治できたが、その跡は薄いシミのように残った。治療は簡単で保険もきく代わり、その効果には限界もあるようだ。

 この黒いイボのようなものは脂漏性角化症というそうだ。老人性色素斑または日光角化症あるいは年寄りイボともいうようだ。中年以降に発症し、加齢とともに増える皮膚の良性腫瘍で、皮膚の老化現象の一つだという。その原因は、遺伝的要因や日光による皮膚の老化だといわれている。

 治療方法は、私が受けた液体窒素による冷凍療法や電気焼灼あるいはレーザー治療がある。ただ後の二者は、治療効果は大きいが、費用面はもとより、肉体的、時間的な負担もそれなりに覚悟しなければならないようだ。

 予防法は、日焼け防止が一番である。それに気をつけている女性たちに、この種のイボがほとんど見られないのがその証拠であろう。私は、日焼けに気をつける一方、皮膚科にもあまり間をおかず通うことにしたいと思っている。
(2014年11月24日)