ハンゲショウ

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[エッセイ 400]
ハンゲショウ

 夏至から11日目は、半夏生(はんげしょう)と呼ばれる雑節にあたる。古くから、農作業の区切りの日とされている。同じころ、それと同じ名前の野草が見ごろを迎える。植物なので、普通はカタカナで書かれるが、半夏生や半化粧などと漢字で書かれることもある。半夏生と書かれるゆえんは雑節の時期と重なるためであり、半化粧と書かれるのはその姿が半分だけ化粧しているように見えるためだといわれている。

 じっくり観察したいと思い、生えている場所を調べてみた。地味な植物のせいだろうか、本やネットでも情報はごく限られていた。それでも、わずかに1カ所だけ市内の公園にあることが分かった。しかし、わが家からは遠い。ちょっと面倒だと思っているうちに、7月2日の半夏生の日は過ぎてしまった。

 4日間も過ぎた昨日、市民会館に出かける用事があった。すべての行事が終わり、帰り支度を始めたとき、突然あのハンゲショウのことを思い出した。そういえば、あの野草のある「新林(しんばやし)公園」はここから近いのではなかろうか。地図を見ると、そこからせいぜい徒歩5分くらいとわかった。

 整備された公園の中を進むと、やがて一番奥にたどり着いた。山から清水の湧き出ている湿地があった。雑木の生い茂る小高い山に囲まれ谷地である。遠目にも、白っぽく輝く野草の群落がそこにあった。茎の先端に近い葉っぱの表面が半分だけ白くなっている。茎だけが、複雑な形をしてさらに先に伸びている。その部分が花だというが、花びらはまったく見当たらない。

 ハンゲショウは、ドクダミの仲間で多年性落葉草本植物だそうだ。ちなみに、多年生草本植物とは果実を生産した後、地上部分が枯死し、翌年その根からまた芽を出してくる植物のことである。この野草は比較的暖かい地帯の湿地を好むという。茎の高さは70センチ前後、葉っぱの形はドクダミ草に似ているが、その緑色はドクダミよりずっときれいでつややかである。

 ハンゲショウたちは、茎の先端から花を無数につけた茎を穂のように伸ばしている。花びらがないため、その形はトカゲのしっぽのようだともいわれている。受粉のためには虫を呼び寄せる必要があるが、これはもっぱら白く変色した先端部分の葉っぱが代役を務めているという。

 実はこの日、カメラは持参していなかった。まさか使うようなことはないだろうと思っていたからだ。雨上がりの今日の午後、カメラを持ってあらためて出直した。結局、撮影できたのは半夏生の5日過ぎだった。空はどんより曇ったままだったが、野草たちはこの日もその白さを存分に際立たせていた。

 この分なら、花びらはなくても虫たちは十分にだませるはずである。
(2014年7月7日)