モクレン

イメージ 1

イメージ 2

[エッセイ 392]
モクレン

 深く透き通るような青空に、真っ白い花の群れが突きささるようにそびえ立つ。ハクモクレンはいまが美しさの頂点にある。その白い花が終わるころ、紫色のシモクレンが咲きはじめ、やがてまた白が基調のコブシへと引き継がれていく。このモクレン木蓮)の仲間たちは約70種類あるというが、その代表はハクモクレン(白木蓮)ではなくシモクレン(紫木蓮)である。

 中国では、彼女たちを木蘭と呼んでいたが、ランよりハスに似ていることから日本のように木蓮と呼ぶようになったという。いずれにせよ、彼の国ではモクレンはランやハスと並んで高貴な花とされているそうだ。英語では、モクレンのことをJapanese magnoliaといい、あたかも日本原産のように聞こえるが、やはり原産地は中国の雲南省四川省あたりだそうだ。

 モクレンは、1億年前から地上に存在する古い植物である。本家のシモクレンは落葉低木で高さは4メートルほど、紫色の肉厚の花をつける。ハクモクレンは落葉高木で高さは15メートルに達する。これらの花びらは9枚あるように見えるが、うち3枚はガク、残り6枚が花びらだそうだ。

 モクレンは、別名コンパスプランツあるいはコンパスフラワーと呼ばれている。これは、つぼみの先が必ず北を向くためだ。春に急激に成長するつぼみは、日当たりのいい南側が特によく育つ。このため、形のバランスが崩れ、傾いた先端が北を向くのだという。花は太陽が昇ると開き沈むと閉じる。モクレンたちは、手をかけずとも美しい樹形を保ち、春になると一斉に花を咲かせる。

 モクレンの樹皮やつぼみは生薬になる。沈静、鎮痛、消炎作用があり、頭痛、頭重、鼻炎、鼻づまり、蓄膿症、濃い鼻水、眩暈などに効果があるという。アメリカのチューイングガムメーカーは、最近、モクレンの樹皮には口臭の原因となるバクテリアを除去する効果があるという研究結果を発表したそうだ。

 モクレン花言葉は、自然への愛、威厳、崇高、恩恵、持続性、忍耐などである。あの華麗な花の姿から、これらは十分納得のいくものである。それにしても、花が盛りを過ぎた後は極端に汚らしくなる。あの真っ白い花びらは茶褐色に変色し、いたるところに散らばってあたりを汚す。崇高や威厳というイメージとはまったく正反対の醜い結末である。

 孤独で誇り高いネコたちは、人目につかないところで最期を迎え、自身の醜い姿は決して人目に曝すことはないという。われらが高貴な花にも、自分自身をきちんと始末させるようなしつけはできないものだろうか。もっとも、あれだけ素晴らしい花を咲かせたのだから、精も根も尽き果て、あとのことまではかまっていられないということかもしれないが・・。
(2014年3月23日)