午年の初詣ツアー

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[エッセイ 386]
午年の初詣ツアー

 高齢者の初詣バスツアーは、2年続けて箱根の峠を越えた。昨年は富士宮の富士山本宮と清水の久能山東照宮、そして一昨年は三島の三嶋大社だった。今年は一体どの方面を目指すつもりだろう。もう長い間続けているので、有名な寺社はあらかた行き尽くしているはずだが・・。

 昨年末に回ってきた回覧版には、午年の初詣は君津の鹿野山神野寺に決まったとあった。カノウザン?ジンヤジ?考えているうちに少しずつ思い出してきた。そうだ、あの虎騒動のあったところだ!そして昨日、みんなでその神野寺にお参りし、古い記憶は一気によみがえった。

 神野寺は昔、住職の趣味で小さな動物園を併設していた。昭和54年(1979年)8月2日、そこで飼っていた虎12頭のうち2頭が逃げだした。相手は危険極まりない野獣である。人も家畜も一歩も外へ出ることができない。一方、ゴルフ場など周辺一帯には警察と猟友会による大捜索網が敷かれた。

 逃げ出した2頭のうちの1頭は、2日後に見つけられ射殺された。しかし、残る1頭はしぶとく逃げ続けた。この間、犬数頭がその虎に喰われるという事件も起きている。27日後、やっと見つけ出され射殺された。この事件以降、野獣を飼うことは厳しく制限されることになる。

 実は、この騒動には、2009年に亡くなった忌野清志郎にまつわる興味深い話が残っている。彼のバンドRCサクセッションは、2日後の8月4日にお隣のマザー牧場でライブを予定していた。この騒動でライブは中止となったが、一方の当事者である忌野は警察に「虎を殺すな」と電話で訴えたそうだ。しかし、結果は前述のとおりである。彼らは、9月15日にライブハウス・渋谷屋根裏で「虎追悼コンサート」を行ったという。

 私たちは、虎騒動の余韻を残しながら、山を下り海岸に向かった。江戸前海苔工場を見学するためである。町工場のようなところだが、新鋭の機械を入れたとかで、生海苔があっという間に板海苔に仕上がっていく。工場の傍らでは、そのさまを見学した人たちが競うように海苔製品を買い求めていた。

 この日は、南房総観光らしく海産物と草花のオンパレードとなった。ポピー摘み、サザエの掴みどり、海産物市場でのお買い物など盛りだくさんのメニューが用意されていた。帰りのバスの中は、網棚はもとよりシートの下までお土産の山で足の踏み場もないほどの混雑ぶりとなった。

 私にとっては、八福神プラス一寺に続く10カ所目の初詣となったが、お参り先が多ければそれだけご利益も多くなるはずである。ただ、神野寺には、寅(トラ)年に行ければもっとよかったと、いまさまながら悔やまれている。
(2014年1月18日)