キョウチクトウ

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[エッセイ 376]
キョウチクトウ

 真夏に高速道路を走っていると、よくピンクの花の群落に出くわす。同じような花は、公園など公共の場所でもしばしば見かける。このキョウチクトウと呼ばれる花は、濃い緑の葉っぱをバックにした鮮やかな桃色が印象的である。葉っぱは竹に、花は桃に似ていることから漢字では夾竹桃と書く。この夾という字、あまりなじみがないが両脇から中のものを挟むという意味らしい。

 キョウチクトウは、木に咲く花の少ない夏に、私たちを長く楽しませてくれる貴重な存在である。6月上旬あたりから花をつけ始め、10月の初めくらいまで4カ月も咲き続ける。百日紅と書いて、その花期の長さを称えられるサルスベリと同じ時期に、それ以上の長さで街を彩ってくれる。私たちに与える印象の強さは、サルスベリをはるかに超えているといえよう。

 この木は、とくに乾燥や排気ガスに強い。そのため、高速道路など交通量の多い過酷な環境に植えられるようになった。原爆が投下された広島では、当時、75年間は草木が生えないだろうといわれていた。その焦土にいち早く花を咲かせたのがキョウチクトウである。そのため、原爆からの復興のシンボルとして広島市の花に指定されたという。

 キョウチクトウはインド原産で、江戸中期に中国を経由して日本に入ってきた。キョウチクトウ科キョウチクトウ属の常緑低木と定義されている。花は本来五弁だが、ピンクの花には八重が多い。色は他に白や黄色もある。繁殖は、そのほとんどを挿し木に頼っている。なんでも、日本には適切な花粉の媒介者がいなかったためだそうだ。そのため果実が実ることもほとんどないという。

 キョウチクトウで特筆すべきは毒性が強いことだ。すべての部分と周辺の土壌にも毒性がおよぶ。生木を燃やした煙も毒、腐葉土にしても1年間は毒性が残る。その毒が体内に入ると、おう吐、痙攣、呼吸麻痺などをおこす。中毒の事例としては、枝を箸や串焼きの串に使ったため死者が出たことがあるそうだ。千葉県では、牛の飼料にその葉が混入していて9頭が死んだという。

 それにしても、毒性が強いというのに、そのことはあまり知られていない。それが植えられている公園などでも、注意書きを目にしたことはない。危険だといわれている割には、事故の事例もあまり耳にしたことはない。この木には薬効があるそうだが、さすがに素人が手を出すには危険が大きすぎるようだ。

 花言葉は、用心、危険、油断大敵、などとロマンチックからはかけ離れたものばかりだ。そのためだろうか、市の花として指定されているのは、前記の広島など5市町にすぎない。こんな身近な花なのに、この花にまつわるエピソードも、牧村三枝子の歌謡曲夾竹桃」以外ほとんど聞いたことがない。
(2013年8月20日)