アルプスの少女ハイジのふるさと

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[エッセイ 349]
アルプスの少女ハイジのふるさと

 日本のテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」の原作は、スイスの作家ヨハンナ・シュピーリによって1880年に発表された児童文学である。原題は「ハイジ(Heidi)」といい、約50カ国語に翻訳され、累計発行部数は5千万部を超えたという。

 日本では30分のテレビ番組として、1974年1月から1年間、52回にわたって放送された。その後も繰り返し放送されたほか、世界中に配給されて多くの国の子供たちからも愛されている。アルプスの風景はもとより、あらゆるものが原作に忠実だったため、日本の作品と気付かない人も多いという。

 主人公のハイジは、幼いころに両親を亡くし、母方の叔母デーテによって育てられる。5歳になったころ、デーテの就職のため、ハイジはアルムの山小屋で暮らす父方の祖父“アルムのおんじ”に預けられる。

 物語はハイジが8歳のころ。登場するのは、ハイジやおじいさんのほかヤギ飼いの少年ペーターや彼のおばさん達、それに子ヤギのユキちゃんや犬のヨーゼフなどの動物である。厳しくも美しいアルプスの大自然を舞台に、ハイジは様々な出来事に出合い、明るく健やかに育っていく。

 このお話の登場人物は架空だが、その舞台は物語の構想を練ったマイエンフェルトの郊外とされている。この地は、スイスの東端、オーストリアリヒテンシュタインに接するグラウビンデン州の小さな田舎町である。私たちは早朝チューリッヒを立ち、途中ルツェルンに立ち寄った後この村に入った。

 私たちのバスは、細い砂利道を上って、急峻な岩山の裾野にあたるなだらかな傾斜地に着いた。ブドウ畑を過ぎた先には、一面に牧草地が広がり、ところどころにモミの木の林がみられる。はるか下の方の広い谷には村が点在し、前方には雪をいただいた高い山が壁のように立ちはだかっている。

 林を抜けた牧草地の一角に、ハイジの泉があった。直径2メートルばかりの石造りの丸い水槽があり、その縁の一角に大きな岩が乗っている。岩の割れ目からは清水が湧きでている。岩の上には、ハイジがそれを覗きこんでいる像が彫られている。観光用に造られたもので、特別由緒あるものではなさそうだ。

 そこから2キロばかり、砂利の小道を行ったところに、ハイジハウスというハイジの博物館があった。この小屋に、アルムのおんじとハイジが住んでいたという想定である。古い農家を利用したもので、生活様式を再現して当時を偲ぶことができるようになっている。ワラのベッドは必見だそうだ。

 ハイジは架空の物語だ。それでも、ハイジは世界中の子供たちの、そして昔子供だった大人たちの心の中に、いまも活きいきと生き続けている。
(2012年7月2日)

写真 上:ハイジ博物館
    下:博物館わきで飼われているヤギ