N響アワーの終了

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[エッセー 341]
N響アワーの終了

 N響アワーが3月25日で終了した。毎週、日曜日の夜を楽しみにしていただけに残念でならない。かつては、それに加えて歌謡曲専門の番組まであった。テレビ東京で日曜日の午後10時から放送されていた「演歌の花道」である。まだ現役だった頃、生々しい出来事を経験することも多かった。その週に少々いやなことがあっても、クラシックと演歌でそれらの傷はきれいに修復できた。さらには、次週へむけての新たな活力まで取り込むことができた。

 その演歌の花道は22年間続いたが、時代の波に流され2000年にその幕を閉じた。現役を退いたいま、受ける傷も少なくなって、翌週への備えはN響アワーだけでなんとか間に合うようになっていた。しかし、そのN響アワーまでなくなってしまった。

 N響アワーは、1980年4月から始まり、32年間続いた長寿番組である。NHK交響楽団定期演奏会の様子を中心に月4回放送され、第5日曜日があるときは「オーケストラの森」というクラシック番組で埋められた。番組は、音楽の専門家とそれに憧憬の深い女性がペアを組んで盛り上げていた。

 印象に残っているのは、池辺晋一郎壇ふみのペアである。池辺のウィットに富んだ歯切れのいい解説と、壇の知的な美しさが番組に大きな花を添えていた。このペアは1996年から6年間も続いた。池辺はこの後も若村麻由美などともペアを組み、通算13年間も解説を勤めた。お硬い番組なのに、こうした演出が功を奏し、平均視聴率は1%前後もあったという。

 それにしても、なぜこんな素晴らしい番組をやめることになったのだろう。たしかに、32年も続けばマンネリ化は避けられない。また普遍性に欠けた点も見逃すことはできまい。番組の対象であるはずのクラシック音楽の愛好家はごく限られた存在でしかない。一方、日本だけでも20を超えるプロの交響楽団があるのに、NHKお抱えのN響だけがひいきにされ、N響の演奏だけが取り上げられるとしたら、違和感を覚える人がいても不思議ではあるまい。

 それともう一つ、素人の私にはまったくわからないことだが、N響がそれだけのレベルにあるのかという点である。世界中のオーケストラをランク付けしたもので、N響がトップ20に入ったのを見たことがないのだ。

 4月からは、「ららら!クラシック」という番組に引き継がれるという。NHKのキャッチコピーを見ると、「日曜の夜、ホッとしたいあなたへ。“ビギナー”から“通”まで楽しんでいただけるクラシック番組です」とあった。N響アワーが消えるのは寂しいが、至らない点を修正しての再出発であるとすれば、前向きにとらえて“ららら”の新番組に期待しよう。
(2012年3月31日)