昭和ポップス

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[エッセイ 583]

昭和ポップス

 

 一月最後の土曜日、夕方になってやりたいことが一段落したのでテレビでも見ようという気になった。たまたま、目の前に「週間テレビ番組表」という紙片が置いてあった。普段あまり使ったことはないが、見たい番組をビデオに撮っておこうと、前の日に古新聞の間から探し出してきたものだ。この日のNHKの予定は、3.05~6.00の間が単に「セレクション」(内容未定)と表示されていた。

 

 当日実際に放送されたのは、「伝説のコンサート―山口百恵の引退公演」と題した2時間半に亘る古い録画だった。7.00のNHKニュースの後、そのままではつまらないのであの番組表で他を探してみた。フジテレビの7.00からのゴールデンタイムは、2時間分が大きく内容未定と書かれていた。こちらの実際の放送は、「世代別ベストソング―令和平成昭和の超名曲」という歌番組だった。

 

 このように、まとまった時間帯は、古いヒット曲の特集番組になることが多いのではなかろうか。見る人はみなその歌のことをよく覚えており、身近な思い出と重ねて楽しんでくれるはずである。大当りすることはないにしても、外れる危険も少ないのではなかろうか。もちろん、過去に制作された番組なので、新たな費用はあまり必要なく、状況を見ながら短時間で準備をすることができる。

 

 実は、この週間テレビ番組表をこれほどじっくりと見たことはなかった。たまたまなのかもしれないが、「未定」が随所にあることはもちろん知らなかった。まとまった時間帯を、こんな形で穴埋めしていくことももちろん想像していなかった。しかし、ゴールデンタイムに近い空き時間帯を、時流に乗せて安直にまとめていこうとすれば、自ずからターゲットは絞られてくるはずである。

 

 最近、昭和ポップスが見直されていると聞く。人口減少と高齢化によって、日本人の平均年齢は上昇を続けている。一方、減少傾向にある若年層は、興味も多様化して、テレビの視聴率は高齢者よりずっと低いはずである。その結果、テレビ視聴者の平均年齢は実際より相当高い位置にあるはずである。最近では、歌手は個人からグループ単位に、芸名は漢字から横文字表記に変ってきている。そんな奇妙な流れも、視聴者の昭和回帰を促すことに繋がっているかもしれない。

 

 生き物は、進化を宿命づけられ、新しいものに目が向くよう仕組まれているはずである。ところが、進化の止まった高齢者は、その存在意義を過去の栄光に求めようとする。「あの頃はよかった」と過去のヒット曲をいまも身近に感じ、それにしがみつこうとさえする。かたや、放送する側は、昨今の厳しい経済状況に鑑み、なるべく制作費はかけたくないと思っているにいちがいない。

 

 こうして、いくつもの偶然が重なり合って、演歌とはひと味違う昭和ポップスに再びスポットライトが当てられることになったようだ。

                       (2021年2月1日 藤原吉弘)