モッコクとハマキムシ

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[エッセイ 322]
モッコクとハマキムシ

 いつもの植木屋が来てくれたのは、8月も終わりに近いころだった。この時期剪定されたものは、ほとんどの木がそのままの姿で次の春を迎える。ただ、マキ、ヤマモモ、それにモッコクの3種類だけは、切られた直後から新しい芽を出そうと準備を始める。

 新芽が出始めると、それを待っていたように虫たちも新たな活動を始める。とくに、モッコクにとりつく虫には往生させられる。せっかく出そろった新しい葉っぱを寄せ集め、丸めるようにして巣籠もるのだ。巣の中では、茶褐色のウジ虫が葉っぱから養分を吸い取りながら成長していく。

 成長したウジ虫は大変身してそこから巣立っていく。あとには、丸められた茶色い枯れ葉が残るだけだ。新しく芽生えた葉っぱのほとんどは、このようにして醜い姿を晒すことになる。わが家だけではない。あちらのご家庭でも、こちらの公園でも、被害は広範囲にわたって広がっている。

 不思議なことに、新芽が出るとそれを待っていたように同じ虫が取りつく。時期が1カ月や2カ月ずれても、同じような結果を招く。卵の状態で木の幹にしがみついていて、発芽と同時にそれを素早く察知して活動を始めるのだろうか。卵の状態で、どうしてそのような能力を保持できるのだろう。

 例年のことなので、剪定直後からモッコクの観察だけは怠らないようにしている。新芽が出始め、少しでも異変が見られるとすぐ消毒をしてやる。葉っぱが成長しきるまでの1~2カ月間キチンと面倒を見てやれば、その後はそれほど荒らされることはない。

 今年は、その最初の対応が数日間遅かった。よく見ると、数センチしか伸びていない新芽に、早くも彼らが取りついていた。この悪役非道な虫たちは、ハマキガという蛾の幼虫でハマキムシと呼ばれている。モッコクに取りつく種類はとくにモッコクハマキムシとよばれ、胴体は茶褐色をしている。

 モッコクはツバキ科の常緑樹、三大庭木とも江戸五木ともいわれ、古くから庭木の定番として珍重されている。モッコクは、耐蟻、耐火、それに耐潮の能力にとくに優れているそうだ。このため、シロアリ対策の決め手として、さらには都市防災の観点から街路樹などへの利用価値も大きいという。

 モッコクは、木材としては堅く、美しい赤褐色を帯びている。床柱あるいは家具や櫛などの木工品にとくに向いているという。樹皮はタンニンを含み、繊維の染料として、とくに八丈島や三宅島で利用されているそうだ。

 モッコクが、こうまでハマキムシに蹂躙され管理に手がかかるのなら、いっそのこと切り倒して木材として利用した方が人のためになるかもしれない。
(2011年9月17日)