さつきの色


[風を感じ、ときを想う日記](1114)5/18

さつきの色

 

 冬の野山は、総じて落ち着いた茶褐色である。それが、春の声を聞くとともに一気に黄緑へと変る。その変化に先立ち、一つの大きなドラマが展開される。裸の枝が、数日のうちに薄紅色で覆われる。ウメ、サクラ、そしてモモ。これらの花が、春霞を背に野山を賑やかに彩る。人々の目線はいやが上にも上空へと向けられ、その心はいても立ってもいられないほど浮き足立ってくる。

 

 春の宴が終わると、薄紅色のあとには黄緑の新芽が芽吹き始める。その黄緑色はまたたく間に野山を覆い、五月の空に上げられた鯉のぼりたちの応援へと廻る。その空は透き通った青色で、特別に五月晴れと呼ばれている。鯉のぼりたちは、その青と緑に挟まれた空間を勢いよく泳ぎ回ることになる。

 

 人々が、その目線を足下に落としてみると、そこは低い位置で咲く花々で賑わっている。ツツジ、ボタン、シャクヤク、バラなどなど、そして一足遅れてやってくるサツキ、たいていが赤を基調とした花たちである。そんな中、ひときわ異彩を放つのが紫色のアヤメやカキツバタの類いである。

 

 目線を再び上方にもどしてみると、木々の緑はいっそう濃さを増している。そんななか、この季節の新芽が緑一色ではないことに気づく。カエデなど特定の樹木は、赤系統の新芽からスタートし、遠回りをして緑へと変身していく。梅雨があけるころ、野山はほとんどが濃い緑に覆われる。