三年ぶりの帰省

[エッセイ 629]

三年ぶりの帰省

 

 コロナに振り回されるようになって、なにもかも予定どおりにいかなくなってしまった。郷里に関わることもしかりである。それまでは、年に一度、実家のあった宅地の草取りに帰っていた。草取りといっても、春先に除草剤を撒いて草が生えてこないよう事前に手を打っておくだけのことである。しかし、それさえも怠ると、雑草たちは遠慮会釈なくはびこってくることになる。

 

 平素空き家になっていた生家の建物は、母の三回忌を機に思い切って取り壊した。跡地には防草シートを張り、その上に砂利を敷いて雑草が生えないよう万全を期していた。しかし、現実にはその防御システムをかいくぐって草どもはどんどん生えてきていた。そこで、春先に帰省しては、除草剤を撒いて新しく生えてくるものを事前に防いでいたわけである。

 

 しかし、2019年の春を最後に、2020年、2021年とコロナのせいで2回ほど手抜きをせざるを得なかった。結局、今回までの丸3年間の空白期間を作ってしまった。現況は一体どうなっているだろう。知り合いに聞いても、だいぶ生えてきているよと聞かされるだけで具体的なことは何一つ分からなかった。心配をしながらも、結局なんの手も打つことはできなかった。

 

 あれから3年、今年はどうしてもこの目で確かめ、自分の手で対策を打っておきたかった。コロナ対策の、世間の目の厳しさが多少緩んできたのを機会に、思い切って帰省することにした。途中、ホームセンターで除草剤を多めに買い込み、祈る気持ちで現地にたどり着いた。甘い予想は一気に吹き飛ばされた。草の株は周りにしっかりと根を張り、葦の仲間の雑草は私の背の高さまで伸びていた。

 

 1箱で最大120坪くらいは撒けるという顆粒状の除草剤を3箱用意していたが、全体の半分を過ぎたあたりで使い切ってしまった。やけくそに近い心理状態に陥っていたのかもしれないが、現況は事前の予想をはるかに超える厳しいものだったのだ。その足でまたホームセンターに引き返し、追加分として2箱を買ってきた。それで、160坪にやっと間に合った。

 

 今回、自宅からは傘を差して出かけたが、瀬戸内海に浮かぶふるさとの2日間は好天そのものだった。久し振りに、生家近くの民宿で郷里の魚も堪能できた。ふるさとの山や海の景色ももちろん十分に楽しめた。会いたいと思っていた親戚や古い友人たちにもあらかた会うことができた。さらには、時間に余裕があったので岩国の錦帯橋にも足を伸ばしてみた。

 

 コロナの影響は考えてもみなかったところまで及んでいた。それでも、通勤時間帯に利用した私鉄やJR、そしてANAの航空便は最盛期に近い混み具合だった。コロナ前の日常は、私たちのそばまで少しずつ戻ってきているようだ。

                      (2022年5月20日 藤原吉弘)