なでしこジャパン

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[エッセイ 315]
なでしこジャパン

 もう何十年も前のことだ。なにかのレポートを書こうとして、ピンクという英語のスペルを確認する必要があった。英和辞典を取りだし、PINKの項を開いてみた。ナデシコ、石竹、石竹色、桃色、淡紅色・・という順で日本語が並べられていた。それまで、ピンクとは色の名前だけだと思っていた私は、自分の不勉強を大いに恥じた。そのPINKチームが日本中を沸かせた。

 目が覚めたのは5時前だった。「どうせ・・」と思いながらもすぐテレビをつけ、チャンネルを探った。女子のワールドカップは8番で放映されていた。なんと、0-0だった。すぐ跳ね起きた。

 ところが、後半半ばモーガンという選手にゴールを割られてしまった。これまでか、とあきらめかけていたら、一瞬のスキを突いて宮間が押し込んだ。後半の35分過ぎだった。1-1、ここまできたら追いついた方が有利だ。

 優勝戦はついに延長に突入した。前半終了直前だった。あれだけ警戒していた長身のワンバックに、それも一番許してはならないヘディングで決められてしまった。この後、どこまで頑張れるだろう?「日本選手もよく頑張った」とねぎらいの言葉を考えていたら、クロスの球を澤が押し込んだ。彼女にとっては5点目となる起死回生のゴールだった。

 ついにPK戦に突入した。キックはアメリカ側から始まった。1人目、ゴールキーパー・海堀の読みは的中した。しかし、上手くいきすぎ、伸ばした両手はボールより先に行ってしまった。彼女は素早く反応してそれを後方の右足ではね飛ばした。一方、日本側の一人目・宮間は落ち着いてそれを決めた。

 アメリカ側は二本目も、三本目も失敗した。日本側は、二人目は失敗したものの三人目の阪口は落ち着いて決めた。残るは二人ずつ、もしここでアメリカが失敗すれば日本の優勝が決まる。しかしさすがワンバック、緊張の場面でも失敗することはなかた。

 いよいよ決定的な場面がやってきた。テレビ画面に熊谷の顔がクローズアップされる。彼女の顔に緊張感はなかった。彼女は落ち着いて左上隅に決めた。一度も勝てなかったアメリカを下し、なでしこジャパンはついに世界の頂点に立った。主将の澤は5点をあげ、得点王とMVPを手中に収めた。

 この一週間、「まさか、まさか」の連続だった。久しぶりに、いい意味での「想定外」を実感させてくれた。私にとっては、「早起きは三文の得」でもあった。
 
 粘り強く。あきらめない。とられてもとりかえす。やればできる。この大会を通して、PINKジャパンは私たちに多くのことを教えてくれた。彼女たちは日本人にたくさんの勇気を与えてくれた。ありがとう。そして、おめでとう。
(2011年7月18日)