妙高高原の紅葉狩

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[エッセイ 359]
妙高高原の紅葉狩

 早暁、山側のカーテンをそっと開けてみた。「おかあさん。妙高山のてっぺんに朝日があたっているよ!」。

 なんとも不思議な巡り合わせである。今年の6月21日、スイスのマッターホルンの玄関口、ツェルマットで同地2日目の夜明けを迎えた。このときの様子をエッセー351で次のように書いている。「早暁、家内の起き出す気配がした。『おとうさん。マッターホルンが見えるよ!』テラスに彼女のうわずった声が響いた。昨日のビューポイントに急いだ。大勢の人でそこはごった返していた。やがて、頂上に金色の光が当たった」。

 あのときは朝焼けのマッターホルン、今度は朝日に輝く妙高山、見つけたのは、前回が家内、そして今回は私である。それだけではない。ツェルマットのホテルで、この町は日本の妙高高原という町と姉妹提携していると聞かされた。以来、機会があったらぜひ彼の地に行ってみたいと思うようになっていた。

 今年の紅葉シーズンを前に、わが家でもどこかへ行ってみようということになった。旅行社のパンフレットを眺めているうちに、妙高高原という文字が目に飛び込んできた。そういえば、箱根でたびたびお世話になっているある健康保険組合の保養所が、妙高高原赤倉温泉にもあるということを思い出した。「そうだ!今年の紅葉狩り妙高高原に行こう」。

 朝ドラはビデオに任せ、同じころには家を出た。相模湖から中央高速に乗った。天気予報では、妙高高原のある新潟方面は芳しくないというが、手前の長野県側は北アルプスまで見渡せる快晴だった。昼食は信州名物を、諏訪湖を見下ろすサービスエリアでいただくことにした。

 この日の紅葉狩りは、須坂市の郊外、高山村の松川渓谷と決めていた。渓谷に分け入るに従って木々は華やかさを増し、目的地にたどりついたときには全山が錦秋の装いを整えていた。落差180メートルの八段の八滝、そして滝の裏から豪快に眺められる落差30メートルの雷滝に心の底まで洗われた。

 翌朝、朝日に輝く妙高山は、すでに紅葉の盛りを過ぎているかのように見えた。紅葉は、松川渓谷で堪能できたのだから、もうそれほど無理をしなくてもいいだろう。そんな思いを抱きながら山道をどんどん登っていった。ところが、両側はがっかりするどころか感嘆の連続だった。とうとう、行き止まりの海抜1,000メートルのところまで上がっていった。

 天気予報では曇りや雨だったのに、空気は澄みはるか遠くまで見渡せる。眼下に錦の裾野が広がり、野尻湖を隔てて高い山々が逆光に浮かびあがる。普段の行いがいかに大切であるかを実感させられる素晴らしい眺望であった。
(2012年10月31日)

写真上:岡倉天心の六角堂と妙高山