プロボノ

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[エッセイ 285]
プロボノ
 
 先日放送されたNHKの「クローズアップ現代」では、“プロボノ”が取り上げられた。プロボノとは、社会人が、仕事を通じて培った知識やスキル、経験やノウハウなどを活かして社会貢献することをいう。具体的には、弁護士、会計士あるいはコンサルタントなどが月に数時間、年間数日といった時間を決めて、NPOの法律や会計、経営の相談などを無償で行うことである。

 プロボノは、2000年頃からアメリカの弁護士などを中心に始まった社会貢献活動で、語源はPro Bono Publico(公共善のために)というラテン語である。資金も人材も不足しがちなNPOを受け皿に、対象分野も規模も急速に拡大し、今や全米で10億ドルもの経済効果をあげているとみられている。背景には、若者を中心に広がる、仕事への意識の変化があるという。

 番組では、日本におけるプロボノの動向を、具体例をあげて伝えている。そこには、やりがいを求めて揺れ動く若者が、新しい働き方として社会貢献に取り組む姿があった。仕事が専門化、複雑化する中、多くの人がより確かな手応えを求め始めているためだという。社員の仕事に対するモチベーションをあげるため、プロボノを支援する企業まで現れ始めているとも伝えている。

 専門分野で、一定の範囲で社会貢献に携わることは、自分の仕事の幅を広げ、質を高める意味でも大きなプラスとなるはずである。自身の存在を意識し、モチベーションアップにつながることも疑いの余地はあるまい。しかし、プロボノを「若者の働き方革命」とまで言い切るのはいかがなものだろう。下手をすると、本業と社会貢献のいずれもが中途半端なことになりかねない。

 社会全体を底上げし進歩発展させるためには、個々の企業や個人が自由競争のもとで本業に専念するのがもっとも効率的である。それぞれのやり方の良し悪しは、市場が判断し選別してくれる。但し、社会は敗れた側に対して、再チャレンジのチャンスを用意してやらなければならない。
 
 日本の将来をマクロで考えたとき、総人口の減少と高齢化は、労働人口の減少と高齢者福祉の負担増という形で私たちの肩に重くのしかかっている。これら二つの課題を解決するために、本業は若者に専念してもらい、労働力の不足分と社会貢献は定年の延長によって高齢者に分担してもらってはどうだろう。経験豊かな高齢者には、質の高い社会貢献が期待できるはずである。

 若者には、自分の仕事を天職とわきまえ、本業に徹しながらそこにやりがいを見出してほしい。モチベーションは人から与えられるものではなく自身で高めていくものである。もう一度現業で頑張る高齢者には、制度面から厚遇してはどうだろう。それでも相当おつりがくるはずである。
(2010年7月5日)