中元

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[エッセイ 287]
中元

 7月15日は雑節の中元にあたる。中元というとすぐ御中元を思い浮かべるが、もとは中国の道教に由来する三元の一つである。三元とは、1月15日の上元(じょうげん)、7月15日の中元(ちゅうげん)、そして12月15日の下元(かげん)という三つの行事の総称である。旧暦なので、行事の行われる15日という日はだいたい満月にあたる。

 三元の行事はそれぞれ別の神が司り、行事の趣旨もまた異なる。中元は、地官大帝でもある赦罪大帝が司ることから、さまざまな罪が赦される贖罪の行事が催される。また、赦罪大帝は地獄の帝でもあるため、死者の罪が赦されるよう願う行事も催される。中国仏教では、この日に祖霊を供養する盂蘭盆会が催されるようになり、中元と盂蘭盆会の習合一体化がすすんだ。

 日本に渡ってきた中国仏教は、さらに神道とも習合しお盆の行事として定着する。江戸時代になると、先祖に供えられる盆供へとともに、商い先や世話になった人にも贈り物をするようになり、これを中元と呼ぶようになった。

 ちなみに、中元とならぶ歳暮はまったく別の起源をもつ。歳暮は年の暮れという意味で12月の季語である。一般的には、歳暮は日ごろお世話になっている人に、感謝の気持ちを伝える「歳暮周り」と呼ばれる暮れの年中行事である。いまでは、中元と対になって年間の行事として定着している。

 ところで、贈り物としての御中元は、いまでは新暦の7月15日までに届けるのが一般的になっている。もしうっかりしてそれを過ぎてしまったら、土用の入りから立秋までは「暑中見舞」、立秋以降は「残暑見舞」とするのがマナーのようだ。ただこの場合、目上の人に対しては「○○見舞」とせず、「○○御伺」とした方がマナーにかなっているという。

 贈答のマナーといえば、1回限りの贈り物なら、この時期であっても「御中元」とせず「御礼」とした方がいいようだ。また、毎年であっても年1回であれば、暮れに「御歳暮」として贈った方が理にかなっている。

 贈り物は、テレビコマーシャルなどでも見かけるように、本来は直接訪問して口上とともに届けるのが筋であろう。ただ、いまでは相手が広範囲にわたり、お互いが多忙ということもあってそれはほとんど不可能に近くなった。

 いつの間にかデパートがそれに代わり、時とともにスーパーやほかの業者でも気にしない時代になってきた。虚礼廃止などといわれて久しいが、いつのまにか贈答件数は漸減し、利用者も高年齢層に偏りつつあるという。

 中元の起源は、さまざまな罪が赦される贖罪の行事である。しかし、御中元一つで一切の罪を逃れようというのは、ちょっと虫がよすぎるかもしれない。
(2010年7月17日)