野菜の直売

イメージ 1

[エッセイ 280]
野菜の直売

 今日はお天気がいいので、引地川親水公園まで出かけてみることにした。いつものことだが、この方面に向かうときは、冷蔵庫にどんな野菜が入っているか事前にチェックしておくことにしている。帰りに、ひいきにしている農家で新鮮野菜を買ってくるつもりがあるからだ。今日はキャベツのほかネギも予定していたが、結果的にはキャベツしか手に入らなかった。

 わが家からの徒歩圏内には、自家産の野菜を玄関先の無人スタンドで直売している農家が6~7軒ある。作ったところがはっきりしており、新鮮で値段も安いので大変重宝している。ただ、多くの農家では店を開くのは週に2~3度、それも品揃えが十分でないためあまり当てにできないのが難点である。それに引きかえ、今日立ち寄った農家は毎日開けており品数もその量も豊富である。

 このような無人の直営店舗は、いまではどこででも見受けられるようになった。農家にとってはなにがしかの現金収入になる。お客さんと接する機会もあり、消費者の生の声を聞くこともできる。市場に出荷するより手間がかかり、代金を払わない人もいるなど必ずしもいいことばかりではないようだが、農家自身の励みにもなることは間違いないだろう。

 消費者にとっては、なんといっても新鮮な野菜がそれも安く手に入るのが魅力である。作っている人の顔が見える、作っている畑の状態やそこでの耕作の様子も分かる。野菜を食べる側にとって、これくらい安心なものはない。まさに、地産地消の原点ともいえよう。ただ、品揃えは農家の都合次第で、買いたいものが揃えられていないこともしばしばである。それでも、骨董市みたいに突然めずらしいものや掘り出しものに出くわす楽しみもある。

 ところで、もうずいぶん昔の話になるが、ハワイへ旅行したときそこで食べたパイナップルの味がいまも忘れられないでいる。畑で完熟させたものと、青いうちに収穫し船倉や倉庫で無理やり熟させたものの違いをいやというほど思い知らされた。その強烈な印象に、お土産にと生のパイナップルを2箱も買ってしまった。帰途、そのうかつさに泣かされたことはいうまでもない。

 完熟といえば、曜日と時間を区切ってトマトだけを売っている農家をみつけた。土曜日の午後、ちょっと足を伸ばしてそのビニールハウスまで出かけてみた。50人以上も並んでおり、真っ赤に熟したトマトを段ボール箱で買い求めていた。翌朝、それを口にしてハワイのあのパイナップルを思い出した。

 それにしても、最近の天候不順とそれによる野菜の値上がりは異常である。そんななか、農家の野菜の直売は私たちにとってはまさに干天の慈雨である。まして完熟のトマトは、本物の味を私たちに思い起こさせてくれている。
(2010年4月25日)