キュウリの栽培

イメージ 1

[エッセイ 446]
キュウリの栽培

 ご近所の方からキュウリの苗を1本いただいた。その方の、知り合いの農家から3本もらったので、そのお裾分けだという。梅雨が始まってまもなくのころだった。さいわい、一番大きな植木鉢が1個空いていた。それまで植えてあった花が、ちょうど終わったところだったのだ。

 植えて一週間が過ぎたあたりから、その苗は成長をはじめた。どうやら、鉢にしっかりと根付いたようだ。直前まで植わっていた植物にしっかりと肥料をやっていたので、それも有効に作用したようだ。さっそく、そのそばに竹を立ててやった。翌朝には、節の根元から出てきた髭がその竹に絡みついていた。

 その翌日から、雨戸を開けるのが楽しみになった。蔓は2日に一節くらいの割で伸びていった。みるみる、竹の頂上近くまで達した。さっそく、竹の先端に荷造り紐を結び、それを軒下の物干竿に連結してやった。長く伸びた髭には目でも付いているかのように、紐に絡みつきながら蔓を上へ上へと誘導していった。途中の節には黄色い花も付けはじめていた。

 二つ目の花が開きだしたころ、最初の花に結実していたはずの実が萎みだした。あれ!受粉しなかったのだろうか?虫など、そこら中にいるはずなのに、なぜ花に立ち寄ってくれなかったのだろう。そうこうしているうちに、二つ目の花にも同じ現象が現れてきた。蔓の成長する楽しみと、実の萎んでしまうことによる落胆とが交錯する毎日となった。

 そんなころ、蔓はとうとう物干竿に達していた。これから先、蔓は竿の左右どちらへ伸びていくだろう。翌朝、髭はその先にあるサルスベリの枝先をとらえていた。そのころ、三番目の花は、その実を大きく膨らませはじめていた。私の朝の楽しみは、蔓の行き先と実の成長具合の二つになった。

 そんなある日、苗を下さったあのご近所の方が、キュウリの実を2本持ってきてくださった。我が家のキュウリとは“姉妹品”に当たるのだとのこと。知り合いの農家から頂いた例の3本の苗のうちの1本から収穫したものだそうだ。豚肉と炒めると旨いよといわれ、ゴーヤーチャンプル風にしてみたら、コクまであって本当においしかった。

 農作物、特に野菜は身近な植物として子供のころからなじみが深かった。近所にある我が家の畑で毎日のように接していた。そんなことから、キュウリはもとより、ナスやトマトなど野菜のことはなんでも知っているつもりでいた。しかし、今回のことで、実はほとんどなにも知らないことに気がついた。

 例の三番目の花に結実した実は、その後順調に育ち、先日サラダにしていただいた。新鮮で歯触りも良く、おいしかったことはいうまでもない。
(2016年7月30日)