ヒヨドリ

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[エッセイ 268](新作)
ヒヨドリ

 メジロが3羽、ツバキの花にたかって仲良く蜜を吸っている。そこへ、灰褐色の大きな鳥が鋭い鳴き声をあげながら割り込んできた。体長が2倍以上もある乱暴者の乱入には、メジロたちもそこを明け渡さないわけにはいかない。ヒヨドリたちは、ホバーリングでもするような恰好で蜜を吸い始めた。

 子供のころ、ミカンの取り入れで母の手伝いをしているとき、てっぺんの実は鳥たちのために1~2個残しておいてやるようにとよくいわれた。モズやカラスもお相伴にあずかっていたが、そのほとんどはヒヨドリたちの胃袋に納められたはずである。

 ヒヨドリの仲間は、東アジアを中心に16属、118種がいる。普段見かけるのはほとんどが日本の固有種だそうだ。体長は28センチくらいあり、スズメの2倍近く、ムクドリより一回り大きい。灰褐色でなかなか精悍な顔つきをしている。雌雄ほとんど同じで見分けはつきにくい。常緑広葉樹林に棲み、ピーヨ、ピーヨと鳴く。ヒヨドリという名前はその鳴き声からきたという。

 一夫一婦で、5月から6月にかけて木の上で営巣し、4~5個の卵を産む。果実が主食であるが、繁殖期には昆虫も食べる。甘党で、ツバキやサクラの密を好む。サクラの花がたくさん落ちている光景を見かけることがあるが、それはたいてい彼らの仕業だそうだ。食べるものに困ると、キャベツや白菜などの葉物もついばむ。そのため害鳥とみなされ、駆除の対象ともされている。

 ヒヨドリを人里で見かけるのは、秋から翌年の春ごろまでにかけてなので、てっきり渡り鳥だと思っていた。ところが日本にいる彼らの仲間は留鳥だそうだ。ただ、暑さがあまり得意ではないで、夏の間は山地や北の寒冷地に移動し、涼しくなると暖かい人里に移ってくるという。

 空中を移動するときは、大きなストロークで羽ばたき、それを繰り返しながら上下に波状の軌跡を描いて飛ぶ。谷を渡るときなどにその様子が見られるので、山あいの深い谷を“鵯越(ひよどりごえ)”と名付けられているところがある。源の義経が活躍した源平・一の谷の合戦の舞台も鵯越と呼ばれている。

 ヒヨドリを飼っているという話は聞いたことがないし、飼っていいかどうかも知らない。ただ、子飼いにすると結構人になつくという。平安時代には、貴族の間でヒヨドリを飼うのがはやったといわれている。

 果実や農作物を食い荒らしたり、暴れまわってうるさくしたりと、ヒヨドリは人に迷惑ばかりかける嫌われ者である。しかし、彼らは草色系なのに肉食系にも似た不良っぽいクールな格好よさも兼ね備えている。人のすぐそばにいる彼らと、なんとかうまく付き合う方法はないものだろうか。
(2010年1月12日)