キジバトのラブコール

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[エッセイ 373]
キジバトのラブコール

 このところ、朝早く起こされて困っている。そうでなくても、加齢と共に眠りが浅くなっているのに、さらに追い打ちをかけられたのではたまったものではない。空が白み始めたとたん、わが家のすぐそばにある電柱のてっぺんからあの鳴き声が聞こえてくる。「デデッポッポー、デデッポッポー」。ウグイスのさえずりなら大歓迎だが、キジバトのあのダミ声には閉口させられるばかりだ。

 あの鳴き声は、メスを呼んでいるオスの声だそうだ。鳴くのは早朝が一番多いと聞く。なにも朝早くから繁殖活動を始めなくてもいいではないかと思うが、鳩にはハトなりの事情があるのだろう。春先の、夜中の猫のラブコールも迷惑だが、早朝のキジバトの鳴き声にも困ったものだ。

 私たちが、普段見掛けるハトは二種類いる。駅や公園など人出の多いところに群れているのがカワラバトで、通称ドバトと呼ばれているものだ。山鳩とも呼ばれているキジバトよりやや大きく、色も綺麗で個性に富んでいる。「グルグル、グルグル」と鳴きながら餌をついばんでいる。その点キジバトは外観が地味で、キジのメスに似ていることからそう呼ばれるようになったという。

 キジバトは、もとは山地に生息していた。それがだんだん人里近くに寄ってきた。山が棲みにくくなったのか、住宅地の環境が良くなったのか、あるいは人々が生き物に優しくなった結果だろうか。そういえば、私の子供のころ、あの声はもっぱら山の方から聞こえてきており、その姿を人里で見かけることはなかった。現に、私の記憶の映像ファイルにも、キジバトの姿は残っていない。

 いまのわが家は、山地でもなんでもないごく普通の住宅街の一角にあるが、その庭にはキジバトがよくやってくる。カワラバトと違って群れではなく、たいていは二羽で遊びにくる。ものの本によると、二羽のときはつがい、三羽のときは親子連れと考えていいそうだ。

 4年前には、ブンゴウメの木に巣を作り、二羽で抱卵を始めたことがある。残念ながら、途中で卵を落としてしまい雛がかえることはなかった。オスとメスが交替する時誤って落としたのか、カラスやヘビに襲われたのか定かではないが、以後営巣する姿を見かけたことはない。

 ここ数日、わが家のそばを縄張りとするあのキジバトの鳴き声に変化が起こった。以前は、ダミ声ではあっても一応リズミカルに鳴いていた。それがまったく調子外れになってしまった。「デデッ・・、ポッ・ポー」だったり、「デ・・デッ・・ポッポー」と鳴いたりする。途中で引っかかり、まったくリズムに乗っていないのだ。聞かされる方にとっては、さらに調子がくるってしまう。

 あまりもてないオスで、ラブコールに疲れ果ててしまったのだろうか。
(2013年7月2日)

注)キジバトの抱卵については4年前に投稿しました。恐れ入りますがこのまま91ページまで遡ってご参照ください。
エッセイ-247 「二羽の山鳩」