木立巨大花

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[エッセイ 261](新作)
木立巨大花

 私がカメラを向けていると、「それはなんという花ですか?初めて見る花ですが」と通りがかりのおばあちゃんが声をかけてきた。「ダリアの一種で、皇帝ダリアというそうです」「ダリアは八重のはずですが、これは一重なんですね。それにしても立派な花ですね」。

 近年、秋になると木立(きだち)の巨大な花が目につくようになった。最初に現れたのが、ラッパが逆さにぶら下がっているような黄色い花である。中南米原産のキダチチョウセンアサガオ(木立朝鮮朝顔)、別名をエンジェルス・トランペットあるいは天使のラッパなどと呼ばれているものである。

 ナス科の仲間で、草ではなく毒をもった木である。木の高さは2~3メートル、一枝に3~4個の下向きの花をつける。花の長さは15センチばかりある。花(ガク)の先端は5つに分かれラッパのように反り返っている。黄色がよく目につくが、ピンクや白の花もある。

 遅れてやってきたのが、秋の空に溶け込みそうな薄紫色の巨大な花である。やはり中南米原産で、コウテイダリア(皇帝ダリア)、別名テイオウダリア(帝王ダリア)あるいはキダチダリア(木立ダリア)と呼ばれている。その花の姿が、堂々として威厳に満ちていることからそう名付けられたという。

 コウテイダリアはキク科ダリア属の多年草で、日照時間が短くなると花が咲きだす短日植物である。冬になると地上部が枯れ、春になるとそこから新芽を出す。新株は挿し木で増やすのが通例だそうだ。初めて畑に生えているのを見かけたとき、私はウドの大木ではないかと勘違いした。

 茎の高さは3~5メートルにも達する。上の方で枝別れし、その先端に直径10~15センチの花をつける。花びらの数は8枚の一重咲きである。花の色は、近隣では薄紫色しか見かけないが、淡紅、赤、牡丹、黄、それに白もあるという。

 近年、秋になると畑や庭にこれらの巨大な花が咲き誇り、静かであるはずの里の秋が、けばけばしい姿に塗り替えられようとしている。日本の、もっとも日本らしい原風景が、いま大きく損なわれようとしているのである。

 しかし、振り返ってみると、いまや日本の夏に欠かせない存在となっているヒマワリも、かつてはそんなバタ臭い存在ではなかったろうか。あの、どぎつい黄色をした太陽にも似た花は、月とススキを愛でる日本人には違和感の塊のような存在であったはずだ。

 最近やってきた巨大花も、いつか日本の風景に溶け込み、和歌や俳句に詠まれるときが来るかもしれない。
(2009年11月21日)

写真
上:キダチチョウセンアサガオ
下:コウテイダリア