高齢者講習

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[エッセイ 258](新作)
高齢者講習

 県の公安委員会から、高齢者講習のお知らせというハガキが届いた。「運転免許証の更新期間が満了する日における年齢が70歳以上の方は、道路交通法により高齢者講習の受講が義務付けられておりますので更新手続の前に、次により受講して下さい。この講習を受講しなかった方は、更新手続きが出来ません」

 一昨日、指定された自動車学校でその講習を受けた。講習の主な内容は、講義・討議、運転適性検査、それに実技である。3人ずつ3つの班に分かれて、これらを順繰りに受講していった。予約の時点で20日先まで満杯だったこと、当日の受講生が9人だったことは、この講習のやり方を見てすぐ理解できた。

 講義・討議では、道交法の改正点や高齢者が特に気をつけなければならない点を、ビデオを使ってわかりやすく解説してくれた。適性検査では、静止視力、動体視力、視野、それに状況変化への反応力を、それぞれ機械を使ってチェックされた。私の場合は、同世代の平均値からみれば悪くはないが、中年世代と比べるとどうしても見劣りしてしまうということであった。

 実車による実技は、仮免の実技試験のときとほぼ同じ要領であった。教師と受講生3人が同じ車に乗り込み、1人1人交代で指定されたコースを走らされる。私は提示された課題を無難にこなしたつもりでいたが、一時停止の操作が少しいい加減であるとの指摘を受けた。
 
 ところで、このとき同乗した一人の女性は初心者と同じ状態にあった。運転席に座ったとき、ただおろおろするばかりで何をどうしていいのか全くわからないという。教師に手とり足とり教えられて発車はしたものの、対向車線をジグザグ走行したり、何度も縁石に乗り上げたり、信号や標識の無視をくりかえした。この間、教師が何度も急ブレーキを踏んだ。

 後部座席に座っている者は生きた心地もしなかった。本人の話によると、免許証を取って以来もう何十年も運転したことはない。平素、免許証は身分証明書代わりに使っているだけ。まさか今日、実際に運転させられるとは思ってもみなかった・・・。それでも“身分証明書”の更新手続きは合法のはずである。

 ちょっぴり怖い思いもさせられたが、所定の3時間は案外短かった。手数料として印紙代5,800円を納め、高齢者講習終了証明書なるものをいただいて自動車学校を後にした。これで、胸を張って免許証の更新手続きに行ける。

 しかし、3年後には、また同じ講習を受けなければならない。さらに、75歳を過ぎるともっと厳しい関門が待ち構えている。「認知機能検査」にパスしなければ、高齢者講習さえ受けさせてもらえないのだ。社会の安全を守るためにはやむを得ない措置かもしれないが、当事者には辛いきまりではある。
(2009年10月1日)