甲子園大会

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[エッセイ 28](既発表 6年前の作品)
甲子園大会

 先週土曜日、全国高校野球選手権大会、いわゆる甲子園大会の決勝戦常総学園高校と東北高校の間で争われた。試合はわれわれの期待を上回る白熱したゲーム展開となり、最後は常総学園が4対2で栄冠を勝ち取った。

 私は試合の模様をテレビで見ていたが、息詰まる展開に感動を抑えることができなかった。今年の大会は雨で延期されることが多く、決勝戦は土曜日にずれ込んだ。このため、テレビの視聴率もかなり高水準になったもようである。

 甲子園大会は、今年で85回目を迎えた。この大会は第2次世界大戦のため途中4回の中断があったので、実際には発足以来89年目を迎えたことになる。甲子園は、第10回大会以来高校野球全国大会の公式球場となったので、ここでの歴史も80年を数えることになる。甲子園球場は、高校野球のメッカであり高校球児の憧れの的でもある。

 真夏の暑い盛り、甲子園に集う老若男女のあの熱いエネルギーは一体なんなのだろう。普通の人なら、屋外に数時間いるだけで熱中症にかかり、ときには死に至ることさえあるというのに。すり鉢状のスタンドに囲まれた球場は、熱気が滞留しさらに直射日光に炙られて炎熱地獄になっているはずである。
 
 甲子園大会は、日本のアマチュアスポーツの中ではもっとも人気のあるゲームである。あこがれの甲子園球場での試合が、彼らのチームにとって今回限りのものになるかもしれない。彼ら自身、一生のうち甲子園でプレーできるのは今だけかもしれない。そうした切迫した想いが球児を一球一球に集中させ、思わぬファインプレーを呼ぶ。観衆は、一所懸命という言葉以外形容しようのない球児の一挙手一投足に強い感動を覚える。

 地域代表によるトーナメント方式は、彼らの郷土愛をも強烈に呼び起こし、甲子園をさらに熱いものに変えていく。郷土愛は、応援団を一つにまとめ、熱い塊となって燃えさかる。その炎は選手をあぶり、球児たちは幻覚の世界へといざなわれていく。閻魔の化身となった選手たちは、実力の数倍もの力をもって見る人の心を揺さぶりつづける。
 
 甲子園に駒を進められるのは、予選に参加した全国4162校のうちわずか49校である。その4162校のうち、4113校は予選で涙をのんだ。さいわい甲子園に進出できた49校も、1校また1校と涙を流しながら球場の土を布袋に詰めて消えていく。結局、涙を流す機会がなかったのはたったの1校だけである。彼らもまた、最後には嬉し涙に頬を濡らす。
 
 私たちは、4162校には、予選にさえ出してもらえない控えの選手がたくさんいることを忘れてはならない。
(2003年8月24日)