タイガースファン

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[エッセイ 23](既発表 6年前の作品)
タイガースファン

 先日、埼玉県に住む古い友人と、お互いの近況について電話で語り合った。彼は、その翌日甲子園球場に試合を見に行くとはしゃいでいた。試合とはもちろん阪神対巨人のことである。彼は、阪神が絶好調の時にそのホームスタジアムで、この黄金カードを見ることを長い間夢見つづけていたそうだ。

 もし阪神ファンなら、一度は甲子園のあの独特の雰囲気に浸ってみたいと思うのはごく自然のことである。もちろん私も阪神ファンであるが、その試合はテレビ観戦で我慢した。両チームの得点は十四対一、私も阪神の大勝に酔った。

 多くの阪神ファンは屈折した気持ちを持ちつづけている。私たちは、数十年の間阪神の成績に裏切られ続けてきた。阪神の前回の優勝は18年前である。その前の優勝は39年前。阪神の優勝はおよそ20年に1回の割合なので、次の優勝のチャンスは20年先ということになる。その友人が、もし今回、甲子園での応援のチャンスを逃したら、一生のうちもう二度と優勝のかかった試合での応援にめぐり合うことはないだろうといっていた。

 阪神と巨人は、日本のプロ野球では最も古い伝統のある球団である。両球団は西日本と東日本を代表するチームである。しかし、巨人はその実力と人気において阪神を常に上回ってきた。私たちの世代のうち、西日本の出身者はたいてい阪神ファンである。

 しかし、巨人ファンの圧倒的に多い関東に住んでいるかぎり、隠れキリシタンのように息をひそめていなければならない。野球の話になるととたんにトーンを落とし、それにはあまり興味がないような顔をする。巨人のことに話題がおよぶと、大リーグが面白いと切り返す。こんないじけたお付き合いがもう何十年も続いている。

 ところが、今年の状況は昨年と大きく違っている。阪神が勝ち進むにつれ、ホーム球場はもとより他の球場においてもファンが急速に増えてきた。神宮球場しかり、東京ドームでさえ阪神の応援が活発になってきた。横浜球場など、どちらがホームチームかわからないくらいになっている。俄か阪神ファンと思われる人たちには、こちらの本家意識がはたらくせいか、どうしても素直に心を許すことができない。しかし、その人たちがもともとの隠れ阪神ファンだったら、お互い肩を抱き合って喜びを分かち合いたい。

 関西の景気は、阪神が勝ち進むにつれて活況を呈してきた。日本全体もそれにつられて元気になりつつある。ひょっとすると、阪神は日本の救世主になるかもしれない。シーズンの前半戦が終わった。阪神は、今年は間違いなく優勝するであろう。しかし、はたして来年も優勝できるだろうか。例によって、阪神の次の優勝は20年後になるのではなかろうか。
(2003年7月12日)