写真館

イメージ 1

[エッセイ 64](既発表 5年前の作品)
写真館

 6月下旬、ニューヨークにいる長男のお嫁さんが、2人の女の子を連れて一時帰国した。昨年2月に成田を発って以来1年半ぶりの再会である。3歳半になる上のおねえちゃんはすっかり大きくなり、言うこともやることもかなりしっかりしてきた。そういえば、この子は今年、七五三を祝う歳である。来月にはアメリカに発ってしまうので、11月を待たず早めにお祝いすることにした。

 先週日曜日、朝早いうちに寒川神社を訪れお祓いの申し込みをした。新生児のお宮参りや交通安全祈願などおよそ30人の人たちと一緒に、無事お祓いを済ませた。一息入れたところで、かねて予約の子供専用の写真館に向かった。

 備え付けの数ある衣装の中からお気に入りの黄色いドレスを選びスタジオに入った。最初のカットは椅子に座ったポーズである。係の人は、ぬいぐるみなどの小道具をかざして語りかけ、その子の隠れた表情を次々と引き出していく。これ!という瞬間を捕らえ、すばやくシャッターを切る。

 途中で飽きて泣き出したり、なかには逃げ出したりする子供もいる。たとえおとなしくしていても、子供は大人が考えるような注文にはなかなか応じてくれない。たとえそのとおりのポーズが取れても、表情は硬く不自然なものになってしまうだろう。係りの人はそれらのことを十分わきまえ、てきぱきと撮影を進めていく。大きな声で叱責するようなことなど決してない。

 これは、鍛錬を積み児童心理に精通した人の専門技能に他ならない。次は背景をかえての立ち姿である。ひとしきりシャッターを切ったところで、今度は緑が基調の和服にお召し変えとなった。終わってみれば、撮られたカット数は20を超えていた。

 実際に注文する写真は、いま撮られたカットの中から欲しいものを選ぶことになる。テレビのディスプレーに映し出されるカットを見ながら、この写真はドレスがよく決まっている。次のカットは表情がやわらかくて本人も気に入った。5番目のものも捨てがたい。7番目の写真は、おじいちゃんの家にぜひ飾ってもらいたい。こんな調子で注文していたら大変なことになった。お嫁さんの予算は6千円といっていたが、最後に払った額はその5倍にも膨らんでいた。
 
 撮影中は子供心をしっかりとつかみ、注文の段階では親心を掴んで離さない。なんという心憎い商売であろう。ホームページにアクセスしてみたら、東証一部の上場企業、250の店舗を展開し、年商は164億円、経常利益は22億円とあった。フィルムカメラが個人個人にまで行き渡り、いままたデジタルカメラが旋風を巻き起こしている。

 少子高齢化が定着し、子供相手の商売がいっそう厳しくなっていくなかでの実績である。大阪発祥のこのベンチャー企業は、縮小傾向の市場にも大きな需要を創り出せることを実証してくれた。
(2004年7月11日)