トキ

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[エッセイ 220](新作)
トキ

 トキが佐渡の大空に舞った。1981年、佐渡に生息する日本最後の野生のトキ5羽が、一斉に捕獲されて以来実に27年ぶりのことだという。
 
 佐渡のトキ保護センターを訪れたのは、もう十数年も前になる。まだ、「キン」や「ミドリ」が元気だった。彼らになんとか二世が誕生しないものかと、腫れ物に触る思いで観察した思い出がある。
 
 ミドリは、新たなお嫁さんを求めて北京まで送られたが、みんなの期待に応えられないまま1995年佐渡で死んだ。日本産最後となったキンも、結局子孫を残すことなく2003年に息を引き取った。
 
 1967年、佐渡にトキ保護センターが完成し、絶滅の危機に瀕していたトキの本格的な人工飼育が始まった。このとき収容されたのは「フク」、「フミ」、「ヒロ」の3羽である。そして、翌1968年には「キン」が、1970年には「ノリ」が新たに加えられた。

 1981年、例の野生のトキ5羽が一斉に捕獲され、保護センターに収容された。まもなく、そのうちの1羽・ミドリとキンのペアリングも始まったが結局うまくいかなかった。以降、中国から借り受けては試行錯誤を繰り返し、1999年、ついに雛1羽の誕生にこぎつけた。その後も少しずつ繁殖を重ね、いまでは、多摩動物公園の12羽を併せると122羽にまで増やすことができた。

 2007年7月からは、自然界への復帰作戦が始まった。「順化ゲージ」という棚田や立木など自然に近い環境が用意され、飛び方やエサ取りの訓練が積まれた。今回放鳥されたのは、1~3歳のオス、メス各5羽、併せて10羽である。今後研究を重ね、2015年ごろまでには佐渡に60羽程度を定着させたいという。

 トキは、コウノトリ目トキ科で、学名をNipponia nippon、漢字では朱鷺と書く。国際的にも、絶滅危険度の最も高い種の一つである。体長約76センチ、翼開長約130センチの大型の美しい鳥である。朱色の皮膚の露出した顔、下方に湾曲したくちばし、そして、後頭部にあるやや長めの冠羽が特徴である。

 羽毛は白色だが、繁殖期には灰色になる。翼の下面は朱色に近い濃いピンク色をしており、これが朱鷺色と呼ばれる色である。かつてはロシアや東南アジアに広く分布し、日本でもほぼ全域に生息していたが、明治以降、乱獲や環境の悪化によって急速にその数を減らしていった。

 日本産は絶滅したが、幸いなことに遺伝的には中国産と全く同じだという。今回の放鳥は、2005年のコウノトリ5羽の野生復帰に続く快挙である。種の復活はまだ緒に就いたばかりであり、これからも息の長い取り組みが要求される。この意義深い活動を、みんなで理解し支えていきたいものである。
(2008年9月26日)