鳴門海峡

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[エッセイ 191](新作)
鳴門海峡
 
 四国八十八ヵ所・霊場巡りの一番札所は、鳴門海峡に程近い霊山寺である。私たちの四国一周の旅も、その鳴門海峡からスタートした。

 鳴門海峡は、四国東北端の大毛島と淡路島に挟まれた海峡である。瀬戸内海は、この海峡によって紀伊水道から太平洋へとつながっている。太平洋の海水は、おもに月の位置によって1日に2回の干満を繰り返す。そのつど、潮位の差を修正しようと海水はこの狭い海峡を移動する。

 鳴門海峡は、中央部の水深が100メートルもあり海水は勢いよく流れる。両サイドは浅くなっており、おまけに岩などの障害物もあって流れはゆるやかである。流れの速度が違えばそこに渦巻きが発生する。直径20メートルにも達するといわれる世界最大級の渦巻きはこのようにして発生する。
 
 渦潮を間近に見るには、水中観潮船に乗るのが一番である。乗船料2,200円を負担すれば、渦の大きさと威力を体感することができる。私も、大鳴門橋ができて間もないころ、ここを訪れ実体験したことがある。その迫力は私の想像を超え、いまにも海底に引き込まれるのではないかという恐怖感さえ覚えた。

 この渦潮は、大毛島の高台にある鳴門公園からもよく見える。さらには、その公園を跨ぐ大鳴門橋の「渦の道」を伝って、海上45メートルの真上から俯瞰することもできる。入場料の500円はかなり割安といえる。

 大鳴門橋は、もともと新幹線も通せる二層構造で造られたものである。上層が往復6車線の自動車専用道路、下層が鉄道用の設計になっていた。「渦の道」は、鉄道計画が立ち消えになり遊休になった下層部分を整備したものである。
 
 鳴門ときくと、吉川英治の時代小説・鳴門秘帖や、伍代夏子の演歌・鳴門海峡を連想してしまう。鳴門の渦潮は鯛やワカメなど豊な海の幸をもたらしてくれる。また、鳴門はサツマイモ・鳴門金時の産地でもある。この地方特有の砂地と気候がその栽培に向いており、高級ブランドとして全国に知られている。

 わが故郷の周防大島は、やはり潮の流れの速い海峡によって本州と隔てられている。八十八ヵ所のミニチュア版もあって、四国と同じようにお遍路さんの巡礼姿を見かけることができる。海峡は大畠瀬戸とよばれ、伊良湖水道ならびに早崎瀬戸とともに日本三大潮流の一つといわれている。ちなみに、鳴門海峡は来島海峡や関門海峡とともに日本三大急潮流と呼ばれている。
 
 海峡は、その厳しさゆえに豊な海の幸を生み出してきた。その一方、海峡は人を隔て、物や情報の交流を妨げてもきた。そこに、海峡を挟んだ幾多のドラマが生まれた。いま、多くの海峡には橋が架けられ、新しい形のドラマがつくられようとしている。
(2007年12月3日)