ウグイス

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[エッセイ 165](新作)
ウグイス
 
 今朝も、夜明けとともにウグイスが透きとおった声で鳴きはじめた。二階では、家内が琴の稽古に精を出している。彼女がいま取り組んでいる曲は、宮城道雄の代表作の一つ「初鴬」である。

 先週までは、選挙カーのウグイス嬢が声を張り上げていた。本物のウグイスや、家内の琴は季節の進行とともにだいぶ上達してきたが、ウグイス嬢のほうはすっかり声をからしてしまった。

 こんなに身近なウグイスなのに、実際にその姿を見かけた記憶はない。図鑑で見て、スズメやメジロの仲間だと理解しているだけである。まさに、「声はすれども姿は見えず」である。

 ウグイスは、メスはスズメと同じくらい、オスはそれより一回り大きい。色はオリーブがかった茶褐色である。東アジアに広く生息するが、日本では全国どこにでもいる。笹の繁った林を好む。一夫多妻。留鳥で、虫や種などを餌とする。警戒心が強く藪の中に潜んでいることが多いという。

 早春から初夏にかけてホーホケキョと鳴く。縄張りを主張するためである。「ホーホ」は息を吸うとき、「ケキョ」は吐くときに発する声だそうだ。「ケキョケキョ」は息を吐いているとき、それも緊張しているときの声だという。

 ウグイスの糞には、酵素が豊富に含まれている。酵素は、角質層を柔らかくして小皺をとり、肌をきめ細かくする効果があるという。また、糞には脱色作用もあることから、肌のくすみをとる効果も期待できるそうだ。このため、糞は美顔洗顔料「ウグイス粉」として古くから利用されてきた。

 ところで、私たちはウグイスについて誤った認識をもっているようだ。その一つは、梅にウグイスである。前半部分でも触れたが、ウグイスはきわめて警戒心が強く、梅の枝に止まってホーホケキョと鳴くようなことはしないそうだ。おそらく、メジロと梅の取り合わせを誤認したものと思われる。

 いま一つは、ウグイス色である。私たちがそう呼んでいるのはオリーブに近いグリーンであるが、実際のウグイスの色はむしろ茶褐色に近い。こちらも、メジロの色をいつのまにかウグイス色と誤認するようになったようである。
 
 平和の続いた江戸時代、人々は花を愛で、小鳥を大切に飼ったという。もちろんウグイスの飼育も、どこでも見られた風景だった。いまでは、捕獲も飼育も禁止され、声はすれども姿は見えず・・が当り前になってしまった。

 ウグイス色や梅とウグイスの誤認は、私たちの周りから自然が遠ざかってしまった結果なのだろうか。あるいは、自然保護が徹底してきた証なのだろうか。この機会に、もう一度自然について考えてみてもいいのではなかろうか。
(2007年4月9日)