冬至

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[エッセイ 154](新作)
冬至
 
 会社勤めの終盤、埼玉県の戸田市まで6年間通勤した。湘南新宿ラインなどというしゃれた電車はまだ整備されておらず、藤沢の自宅から片道2時間半かかった。始業が8時半だったので、6時前には家を出なければならなかった。

 冬場になると、星の瞬いている時間に駅に向かう。電車が横浜に差し掛かるころ、やっと東の空が白んできた。冬の寒さより、暗い内に自宅を出るのがなんともつらかった。冬至を過ぎると、徐々に夜明けが早くなる。本格的な寒さに向かう時期なのに、気持ちは日一日と明るさを取り戻していった。

 冬至、冬なか、冬はじめ。今年も、冬至とともに本格的な冬がやってくる。冬至に、柚子湯に入り冬至粥(小豆粥)やカボチャを食べると風邪を引かないという。なんきん(カボチャ)やにんじんなど、「ん」が二つつくものを食べると幸運が得られるとも伝えられている。

 柚子湯には、肌をすべすべにする美肌効果があり、冷え性リュウマチにも効くという。体が温まって風邪予防にいいというのはよく知られているが、アロマセラピーのリラックス効果も期待できるそうだ。冬至と「湯治」、柚子と「融通」をかけるなど、なかなかユーモラスに語り継がれてきたものである。

 カボチャは保存がきき、保存中の栄養素の損失も少ないことから、野菜の途切れる冬場の貴重な栄養源であった。カボチャには、体内でビタミンに変化するカロチンがたっぷりと含まれている。脳卒中(中風)の予防に役立つだけでなく、皮膚や粘膜、視力、骨や歯の強化にも効果があるといわれている。

 冬至は、二十四節気の一つである。12月22日あるいは23日がそれにあたる。太陽黄経が270度のときである。北半球では太陽の南中高度が最も低く、一年のうちで昼が最も短く夜が最も長くなる日を指す。暦の上では、この日と小寒までの期間を冬至と呼ぶ。

 太陽が、地球の周りを一年かけて回っていると考えると、その周回軌道は地球の赤道に対し23、4度傾いていることになる。太陽の軌道が地球の赤道より北側にあるとき、地球の北半球は夏に向かい、南側に入ったときは冬に向かう。このような、天動説的な観点からみた太陽の軌道を太陽黄経とよぶそうだ。

 両方の軌道は一年に二回交差する。冬から夏に向かう交差点が春分の日、その対角にある交差点が秋分の日である。太陽の軌道一周を360度とし、春分の日を0度とすると、秋分の日は180度、冬至は270度ということになる。

 冬至は、陰が極まり陽に向かって動きだす日である。一陽来復、この日を境に、畳の目一つ分ずつ日脚が伸びていく。冬至は、暗闇の一番長い日、死に一番近い日から明るい日差しにむけて一歩ずつ抜け出していく転換点である。
(2006年12月26日)