ニューヨークこぼれ話(3)「地下鉄」

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[エッセイ 140] (新作)
ニューヨークこぼれ話(3)「地下鉄」

 私たち夫婦は、タイムズ・スクエアからワールド・トレーディング・センター跡地に向かおうとしていた。地下鉄の路線図をみると、E路線で7つ目であった。最寄りの42ST駅まではちょっと距離があったが、見覚えのある街並みの散策にはちょうど手ごろであった。

 階段を下りていくと、そこは単なる出口であった。そのときになって、目印になっている入口の赤いランプが、実は出口専用のしるしであることを思い出した。緑のランプは、交差点の反対側にあった。

 料金は、いまも全線2ドル均一であった。10ドルでメトロカードを1枚だけ買い、自動改札にスライドさせて中に入った。料金の2ドルは、そのプリペード・カードから自動的に引き落とされる。そのカードを、今度は改札越しに家内に手渡し、同じ要領で入場させた。

 駅に着くたびにホームの掲示を見ていたら、駅名の数字がだんだん増えていく。Downtown方向に乗ったはずなのにどこでどう間違ったのだろう。隣の席の婦人に確かめたら、やはり間違いだといわれあわてて次の駅で乗り換えた。
 
 ニューヨークの地下鉄は、3Kの代名詞のようにいわれていた時代があった。駅は汚く、暗い車内には落書きが溢れていた。観光客にはまったく縁のない、危険な場所であった。それが、いまや東京なみに改善されたという。

 マンハッタンには、主に南北方向に9つの地下鉄路線が走っている。北に向かうのがUptown、南がDowntown方面と呼ばれている。駅名には、東西に走るストリート(St)の名前がつけられていることが多い。何丁目に相当する数字は、南が若く、北へ行くほど大きくなっている。

 ニューヨーク市都市交通局が運営するこの地下鉄は、マンハッタンを出るあたりから、たいてい3つか4つの路線に枝分かれする。その路線網は、スッテン島を除く市の4地域をまんべんなくカバーし、しかも大半が複々線である。その路線は全部で26にのぼり、総延長は1056キロに達するそうだ。

 ロンドンの12路線・408キロ、パリの14路線・221キロ、モスクワの12路線・278キロ、そして東京の13路線・292キロなどと比べると、その規模の大きさが窺い知れる。もっとも、JRや私鉄の路線が充実している東京は、鉄道網全体ではニューヨークに引けを取らないのではなかろうか。

 ニューヨークの地下鉄は、便利で安全、しかも安い。東西方向の路線網は貧弱であるが、マンハッタンを端から端まで横断してみても3キロ少々である。

 観光は、自分の足で歩いてこそ収穫も大きい。世界の大都市は、ほとんど例外なく地下鉄網が整備されている。地下鉄で、自分の足で地球を歩こう。
(2006年7月31日)

[写真、上はメトロカード
      ―下辺の黒い帯が記録の入っている磁気部分―みぞに入れて前方にスライドさせる、
    下は(参考)メトロ・ノース鉄道の回数券―10回分、シニア割引―穴は車内改札の鋏の跡]