ニューヨーク・普通の生活の日記⑥(5/29)「プリマス」

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[エッセイ 126](新作)
ニューヨーク・普通の生活の日記⑥「プリマス

 太平洋のど真ん中に浮ぶ小さな岩を、コンクリートの分厚い防波堤ががっちりと囲い込んでいる。その周囲には、波消しブロックが何重にも敷き詰められ、荒波のひとしずくたりとも寄せ付けないという構えを見せている。日本の大切な領土、沖ノ鳥島である。

 海岸べりに建てられたギリシャ神殿風の建物の中を覗き込んだとき、すぐこの島のことを連想した。半地下になったその建物の床面は、そのまま砂浜へとつながっている。床の中央には、花崗岩の大きな岩が鎮座していた。プリマス・ロック(Plymouth Rock)とよばれるアメリカ史上もっとも記念すべき大切な岩である。

 メイフラワー鏡す罎望茲辰謄茵璽蹈奪僂ら新天地を目指したピルグリム・ファーザーズたちは、1620年の暮、このプリマス(Plymouth)に上陸した。その第一歩をしるしたのがこの花崗岩である。岩には、上陸の年の1620という数字が刻まれている。

 なんの変哲もないこの小さな港町は大アメリカの故郷であり、どこにでもありそうな小さな花崗岩はけだしアメリカの原点である。ボストンから南へ約60キロ、私たちはニューヨークへの帰途この美しい入江の町に立ち寄った。

 この町には、彼らが入植した当時の暮らしを再現したテーマパークがあった。プリマスプランテーション(Plymouth Plantation)といい、入植者たちと原住民を対比させるかたちをとっている。テーマパークのスタッフたちは、当時の建物で当時の服装をし、当時の暮らし方を再現して見せてくれた。もちろん、入場者への説明も当時の言葉遣いで行われているそうだが、そのほうは私たちには理解できるはずもなかった。

 例のプリマス・ロックの近くに桟橋があり、メイフラワー鏡す罎隼廚靴帆船が係留されていた。400年近く前の船が現存するはずもなく、当時のまま忠実に再現された実物大の復元モデルだそうだ。入場券がテーマパークとセットになっており、しばし往時を偲ばせてくれた。

 プリマスからの帰途は、海岸に近いルートをとった。高速道路の途中には、動物の死体がところどころに転がっていた。息子の話によると、中部に向けて行けば鹿の死体にたくさん出くわすうそうだ。そういえば、道の両側は自然のままで、フェンスや防音壁を見かけることはほとんどなかった。

 それにしてもこのアメリカ、プリマスを出発点にたった400年足らずで世界の超大国にのし上がった。その飛躍の秘密は、ニューヨークでもう少し普通の生活をしてみないと見えてこないのかもしれない。

[写真は、メイフラワー鏡す罎亮楕大再現モデル]