つくしんぼう

[エッセイ 92](既発表 1年前の作品)
つくしんぼう

 桜前線が話題に上り出すころ、川の土手ではつくしんぼうが顔を出す。そのユーモラスな姿は、子供のころの思い出とも重なって多くの人に愛されてきた。

 春先、畦道で1本見つけつい手が伸びる。その脇にもう1本、さらにもう1本。よく見ると数え切れないほど生えている。その愛らしさからか、ついつい左手いっぱいに摘み取ってしまう。茎の、袴に覆われている部分から引き抜き、元に戻しておいて、どこを接いだかをあてっこした思い出もいまは懐かしい。夕食にと、油炒めやおひたしにしてみたこともあった。

 つくしの名前は、天に突き出る「突く」に助詞の「し」を加えて「つくし」としたという説がある。また、その立ち姿から漢字では「土筆」と書く。中国では「筆頭菜」と書くそうだ。つくしのそばに寄り添うスギナは、その姿から「杉菜」というイメージが発想のもとになっているのではなかろうか。

 英語では、スギナをbottle-brush あるいはhorsetailなどというそうだがつくしについての単語は見当たらない。いずれにしても、彼等のユニークな姿がそのまま呼び名になったところが面白い。おもしろいといえば、つくしの胞子と杉の雄花は、形はもとより胞子や花粉の飛び方までそっくりだそうだ。ひょっとすると、杉花粉症の中につくし胞子症などというものが混じっているかもしれない。

 つくしは美味とはいいがたいが、熱を加えすぎないなどその繊細さに見合う気遣いをしてやれば、それなりに野草の香りを楽しむことができる。スギナは、食用にもまして薬効に優れているという。春、色のあざやかな時期に採り入れ、きれいに洗って天日干しにする。それを適当な長さに切って袋に入れて吊るしておく。必要な時、15グラムほどを取り出して400CCの水で半分の量になるまで煎じ1日3回飲むのだそうだ。利尿効果があり腎臓病、膀胱炎あるいは肺結核などに大きな効き目があるという。

 「つくしだれの子、スギナの子」などといれるが、両者は親子関係ではなく黒褐色の地下茎で結ばれた1つの個体である。それが、スギナとつくしの2態に分かれ、それぞれ重要な役割を分担している。スギナは栄養茎とよばれ植物としての日常生活を、つくしは胞子茎とよばれ繁殖の機能を担っている。地下茎は、竹のように自分自身で生活の場を広げていくこともできる。

 彼らは、このように地下茎によるクローン作戦で周囲を固める一方、シダ類本来の繁殖の仕方である胞子を飛散させることによって子孫の繁栄を図っている。

 ソメイヨシノの華やぎのすぐ下で、このようなしたたかな営みが静かに受け継がれている。少子化で悩む前に、花見で浮かれるまえに、私たちの足元をもう一度見直してみる価値があるかもしれない。
(2005年4月2日)