フキノトウ

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f:id:yf-fujiwara:20220228163145j:plain[エッセイ 623]

フキノトウ

 

 知り合いからフキノトウ(蕗の薹)をいただいた。散歩の途中、畦道にたくさん生えていたのを摘んできたのだという。いっぱい詰まったプラ袋から、ちょっぴりお裾分けしていただいた。数日前から、春の足音を間近に感じていたが、こうして春到来の証を実際に手にとってみると、その実感もまたひとしおである。

 

 さっそく、それらを天ぷらにしてもらおうと家内に声をかけた。しかし、夕食にはすでに生魚が用意されていた。仕方なく、フキノトウのメインディッシュは翌日に廻すこととし、この日は代わりにフキノトウ味噌を作ってもらうことにした。フキの新芽を小さく刻んで味噌を加え、油で炒めたものである。

 

 ウマィ!思わず感嘆符付きの言葉を発っしてしまった。箸の先で一口つまんだだけなのに、新鮮な香りと独特の苦みが口いっぱいに広がってきた。これぞ春そのものである。わさび、山椒、そしてクレソン。それらの新芽はいずれも風味豊かであるが、フキノトウはそれらライバルに勝るとも劣ることはない。

 

 そしてその翌日、夕食はフキノトウの天ぷらとなった。タラの芽の揚げ物を凌ぐ味と香りであった。このときはもう一品、つまみも作ってもらった。フキの芽を小さく刻み、半干しシラスを加えて醤油で炒めたものだ。これもまた絶品だった。ちょうどビールを抜いたばかりだったので一気に売り切れてしまった。

 

 わが家では、結局、フキノトウの天ぷら、フキノトウ味噌、そしてフキノトウとシラスの醤油炒めの三品で春の香りを満喫させてもらうことができた。フキノトウの賞味方法としては、これらの他に、煮物、和え物、味噌汁などとしていただくのが一般的なようだ。いずれも、ほろ苦さと特有の香りが楽しめる。

 

 ところで、フキノトウの親であるフキは、日本原産の多年草である。植物図鑑には、キク科フキ属で雌雄異株と紹介されている。丘陵地や原野、あるいは山野の土手や道ばたなど、やや湿ったところに自生している。フキの葉柄は食材として珍重されるが、もう少し季節が進むと、さつま揚げや干し椎茸などとともにタケノコの立派なお供として一緒に煮られることが多い。

 

 こうして、フキノトウのことを書いていて、その繁殖方法はスギナとツクシの親子によく似ていると感じた。かつて、その親子についてもこのエッセーで書いたことがあるが、地下茎で生息範囲を広げていくとともに、一方で花を咲かせその種を遠くへ飛ばす。その二面作戦にえらく感嘆したことがある。

 

 今回、久し振りにフキノトウを味あわせてもらったが、あのほろ苦さの成分はアルカロイドの一種でがんの予防にも効果があるそうだ。フキノトウをもう少したくさんいただいて、がんに負けない体力を作り上げたい。そう思って近所を徘徊してみたが、みな開花し終わってすべてが後の祭りになっていた。

                      (2022年2月28日 藤原吉弘)