スパゲッティ

[エッセイ 677]

スパゲッティ

 

 わが家では、昼食によく麵類をいただく。そのメニューは、季節や前夜の献立によって大きく左右される。寒いときは、前夜いただいたなべ物のつゆを利用したうどん、そしてなべ物でないときはスパゲッティをいただくことが多い。それらの麵は、温かくなってくると蕎麦に、夏になると素麺に変わる。いまは一番寒いときなので、麵類はうどんかスパゲッティということになる。

 

 今日のお昼は、前夜がなべ物ではなかったのでスパゲッティということになった。わが家のそのメニューはきまってミートソースである。もちろんそれが一番好きだからである。買い置きの乾麺を5分程度茹で、平らな皿に盛る。後は、出来合いの市販のソースをお湯で温めて麵にかけるだけである。まだ温かいうちにいただくと、専門店に負けないディリシャスな出来映えとなる。

 

 スパゲッティといえば、かつてはナポリタンが主流だった。あれは30数年前、イタリアのツアーに参加したときのことだ。オプショナルツアーでポンペイの遺跡に足を伸ばした。その日の昼食は、隣接するナポリ市内のレストランでいただいた。出されたのは、当然のことながら“ナポリタン”だった。そのときは、本場物はさすがに美味いと感心した。しかし、後になって調べてみたら、ナポリタンは日本人の考案で、普段イタリアでは食べられていないということだった。

 

 スパゲッティはパスタの一種である。断面が円形で、ひも状になったものをその太さで呼び分ける。普通、スパゲッティとは直径1.9~2ミリのものをいう。それより太いものはスパゲット、さらに太いものヴェルミチェッリとよぶ。反対に、細いものスパゲッティーニ、さらに細いものはカペッリーニと呼ぶそうだ。パスタには、こうしたひも状の長いものだけでなく、筒状のマカロニや蝶のような形をしたファルファッレなどのショートパスタも各種ある。

 

 話をスパゲッティに絞ろう。スパゲッティのメニューはソースや一緒にあえる材料によって呼び分けられている。本場のメニューとしては、ボロネーゼ、カルボナール、ヴォンコレ、ペペロンチーノ、ブッタネスカ、アラビアータ、ネーロなどが上げられる。一方、和風では、ナポリタン、たらこ、和風きのこ、納豆、それに餡かけや鉄板などがある。

 

 ところで、わが家でミートソースをいただくときは、ちり紙をヨダレカケのようにあごの下に引っかけておく。ソースをたっぷりとかけるので、ピンクの汁が衣類に飛び散るのを防ぐためだ。あの液体は、洗濯してもなかなか落ちないのだ。

 

 あと数日のうちに立春を迎えるが、わが家でざる蕎麦や素麵をいただくのはまだだいぶ先のことになりそうだ。ヨダレカケのお世話になりながらイタリア料理に舌鼓を打つ、そんな光景がいましばらくは数日おきにやってきそうだ。

                       (2024年2月1日 藤原吉弘)