クズ

[エッセイ 667]

クズ

 

 近隣の、高台に続く坂道の土手は、青々としたつる性植物に覆われ、盛り上がってさえ見える。散歩の途次、そこらあたりを眺めながら歩いていたら、大きな緑の葉っぱの間にピンクの花が咲いていた。この植物、一般的には“クズ”というが、子供のころ実家の方では“カズラ”とも呼んでいた。

 

 帰宅後、なんとなく気になったので、クズとカズラについて調べてみた。クズはマメ科クズ属のつる性の多年草で、カズラはつる性植物の総称だそうだ。漢字で書くと、辞書ではいずれも「葛」という字が出てきた。クズをイメージしたときは“クズ”と読み、カズラといいたいときはそう発音すればいいそうだ。

 

 なんとも優柔不断な言い訳じみた話だが、これ以降はクズについて話を進めることにする。このクズという名前、かつては大和国吉野川上流の国栖(くず)というところが葛粉の産地だったことに由来する。万葉の昔から秋の七草として親しまれてきたこの植物は、東南アジアと太平洋諸島に広く分布している。

 

 根は太く多量のでん粉を含み、葉は葉柄が長く大型の複葉で茶色の毛がある。秋になると、葉のつけ根に赤紫色の花が房のようになって咲く。クズの蔓は全長10メートル以上に伸び、まわりの木々を覆ってついには枯らしてしまう。そんなことから、「世界の侵略的外来種ワースト100」の一つに指定されている。

 

 クズは昔からいろいろなものに利用されてきた。一番利用価値の高いのはでん粉を多く含んでいる根で、粉にした“葛粉”は葛切りや葛餅などの和菓子の材料や料理のとろみ付けとして利用される。角切りにして乾燥させた“葛根”は、発汗作用や解熱作用あるいは鎮痛作用があることから薬として利用されてきた。

 

 クズの花“葛花(かっか)”は二日酔いに効果があるという。生の葉は、昔から止血剤としても利用されてきた。クズの蔓も利用価値は高い。ツルを煮出して繊維を取りだしたものは“葛布”として織物になる。昔は蔓をロープ代りにも利用していたようで、その代表例は徳島県の“かずら橋”である。

 

 わが家の近くのあの土手は、以前はススキが大半を占めクズは少数派だった。ところが、最近ではほとんどがクズで占められるようになった。もっとも、土手の中腹に立てられた電柱は、以前から蔓に覆われることが多く、草刈り業者はその処理に手を焼いていた。伐採の後、下から2~3メートルまでは剥がされるが、その上方は枯れた葉っぱの塊が醜くぶら下がっているのが常であった。

 

 このように、クズは私たちにとって役に立つ反面、世界の侵略的植物と呼ばれるようにきわめてやっかいな植物でもある。しかし、この植物と共存していくかぎり、その旺盛な繁殖力を利用しての防災対策や、薬効を利用した健康対策など、その利用方法についてもっと掘り下げて考えていくべきではなかろうか。

                      (2023年9月13日 藤原吉弘)