セイタカアワダチソウ

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[エッセイ 569]

セイタカアワダチソウ

 

 季節の花を求めて、カメラ片手に近在をよく散歩する。ブログの投稿記事に、花の写真で彩りを添えたいためだ。しかし、晩秋にもなると、花の種類はもとより数自体も極端に少なくなる。そんななかで、あの黄色いセイタカアワダチソウ(背高泡立草)にだけは、何処ででもたくさん出会うことができる。ただ、あのどぎつい黄色の群落は、日本の秋を代表する花とはお世辞にもいいたくない。

 

 あれは、昭和40年代の初めごろだったろう。突然、黄色い花が見られるようになった。その数もだんだん増え、野原や田圃の畦道はもちろん、ちょっとした空き地まで黄色く染められるようになった。このままいったら、日本中が占領されてしまうのではなかろうか。聞けば、北アメリカ原産だという。日本の山河は、今度は黄色い米軍の占領地になってしまうかもしれない。

 

 この野草は、明治時代には日本に入っていたようだが、それほど繁殖することはなかった。それが、終戦アメリカからの輸入が増えるにつれ、草の種がそれらの物資にくっついて大量に運び込まれてきたものと思われる。そして、先の東京オリンピック以降全国的にはびこっていったようだ。あの黄色い花がどんどん広がっていくさまを見て、暗澹たる思いにさせられたものである。

 

 あれから半世紀、あの黄色い群落は心配されたほど広がらず、逆に縮小してきているようにさえ見える。先日の、中秋の名月のときも、黄色い花に煩わされることもなく、日本の秋に欠かすことのできないススキを堪能することができた。実は、その日本産のススキが太平洋を渡り、今度はアメリカで繁殖を続け、現地の人たちを困らせているという話もある。

 

 このセイタカアワダチソウの栄枯盛衰は、「アレロパシー」、日本語では「他感作用」という現象によるものだそうだ。ある植物が合成して分泌・揮散する化学物質によって、近隣植物の発芽、成長あるいは形態形成に悪影響を与える作用である。つまり、周りの植物に障害を与え、自分だけ繁栄しようといういうものだ。それを一番強く発揮できる植物がセイタカアワダチソウなのだそうだ。

 

 ところが、大きな群落に成長したその植物が生育阻害物質を出し続ければ、その濃度が上昇し自身に跳ね返えって自家中毒に陥ることになる。その結果、成長した群落は反転縮小へと向かう。農作で、よく連作障害という言葉を聞くが、この作用の結果がまさにそれに相当する。いまの日本におけるセイタカアワダチソウは、自家中毒あるいは連作障害といった状況にあるといってよさそうだ。

 

 一時花粉症の犯人にされかけたが、真犯人はブタクサだったとその疑いも晴れたようだ。彼らは、一時の爆発的な増殖から落ち着くところへ落ち着きつつある。ススキとの勢力争いにも、一定の決着がつく見通しが立ってきた。ひょっとして、何年か後には日本の“秋の八草”として名を連ねているかもしれない。

                         (2020年10月20日 藤原吉弘)