ウイズ 蚊

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[エッセイ 568]

ウイズ

 

 数日前、庭の芝刈りをしていたら、いっぱい蚊に刺されてしまった。夏に外で作業をするときは、蚊を防ぐために二つの方法を併用している。一つは、防虫スプレーを肌の露出部分に吹き付けておく。もう一つは、防虫薬剤を蒸散させて、そのガスで蚊を近くに寄せ付けないようにすることである。この日は、二つ目の防虫薬剤の蒸散器を装着するのを忘れていたのだった。

 

 この日は、なぜか蚊がすぐ間近を飛び回るので、かなりいらだちながら作業していた。そのうち、ズボンと靴下の間が痒くなってきた。どうやら、その部分が露出していたらしく、そこを蚊に狙われたらしい。作業を終えて室内の戻り、作業服を脱ぎながら痒くなった足の部分を見て驚いた。赤くふくれあがった斑点が、なんと9箇所もあった。

 

 今年の夏は蚊が少なかった。コロナ対策が奏功したのだろうか、などと根拠のないことまで考えてみた。ところが、お盆を過ぎたあたりから急に蚊が増えてきた。後で調べてみたら、暑さの好きな蚊でも35度を超えると活動が鈍くなり、死ぬことだってあるそうだ。蚊の活動できる適温は32度くらいまでだそうだ。今年の猛暑では、おとなしくせざるを得なかったのは当然といえよう。

 

 ところで、私たちの子供のころは、蚊はハエやノミそしてシラミと共に身の回りにごくふつうに存在していた。ところが、蚊を除くその他の害虫は、人の手によっていつのまにか“絶滅危惧種”にされてしまった。これら3種は、名前は覚えていても漢字はすぐには思い出せないほど遠い存在になっている。

 

 その点、蚊は普段からなじみが深いので、すぐ“蚊”と漢字で書けた。ところが書いていてその文字の構成に驚いた。ひょっとして、“ブーン”と飛ぶので虫偏に“文”と書くのだろうかという疑問が湧いてきたのだ。早速ネットで調べてみたが、正解は見当たらなかった。だじゃれのような、こじつけのような「ブーン説」が半分、はっきり分からないというのが半分だった。

 

 言葉にこだわったついでに、蚊に襲われたときの表現について考えてみた。子供のころ、蚊にやられると「蚊に喰われた」といっていたが、いつの間にか「蚊に刺された」というようになった。状況から判断すると「刺された」が当たっているように思えるが、正確な表現はどっちなのだろう。

 

 蚊は、ここまで執拗なまでに人間に寄り添ってきた。蚊の繁殖しそうな水たまりは、植木鉢の受け皿までことごとく排除してきた。たまには、庭の木々に消毒までしている。ご近所でも同じようの気遣いをしているようにみえる。それでも、蚊は引き下がってくれる気配を見せない。

 

 こうなったら、蚊と共存することを真剣に考えなければならないのかもしれない。“ウイズ コロナ”同様、“ウイズ 蚊”はどうあるべきなのだろうと。

                     (2020年10月17日 藤原吉弘)