霜降と木枯らし宣言

f:id:yf-fujiwara:20201024153320j:plain

f:id:yf-fujiwara:20201024153355j:plain
[エッセイ 570]

霜降と木枯らし宣言

 

 二十四節気では、10月23日とそれ以降の15日間は「霜降(そうこう)」に当たる。秋も深まってくると、日は短くなり朝晩は急に冷え込むようになる。朝起きてみると、草花がしおれ、あたりは霜で真っ白などということもある。秋の最終章である霜降は、冬に向かって季節が一気に進んでいくときである。

 

 地表近くの気温が0度まで下がると、空気中の水蒸気が冷やされ、そばにある草などの表面に凍り付いて結晶となる。霜が降りるという現象である。水分が上から降りてきて結晶となるので、霜は「降りる」と表現する。ただ、風があると、気温はそこまで下がりきれないので水蒸気の結晶もできにくい。

 

 霜が降りるほどの低温になると、農作物の細胞の内または外の水分が凍り、細胞は奪水されて枯死する。それを防ぐためには、上にカバーを被せたり風通しをよくして霜が降りないようにしてやる必要がある。茶畑には、てっぺんにファンのついた柱が立てられているが、あれなど典型的な霜対策である。

 

 このころになると、強い北風が吹き、枯れ葉が舞って街は寒々とした光景に一変することがある。テレビは、木枯らし1号が吹きましたなどと伝える。春先の「春一番」と対になった気象庁のユーモラスな宣言である。いわば、「冬が来ましたよ~」と、コートや暖房器具などの冬支度を促しているようである。

 

 木枯らしの宣言にはきちんとした定義がある。①10月半ばから11月末までの間に吹く強い風であること。②気圧配置が西高東低の冬型で、実際に季節風になっていること。③風向きが西北西から北であること。そして、④最大風速がおおむね8メートル以上であること。だそうだ。

 

 この宣言は東京と大阪に限られているが、大阪については対象期間がもう少し後ろまで延ばされている。しかも、東京は1号が出ればそれでおしまいだが、大阪は2号の宣言もあるそうだ。気象条件の地域的な違いを考慮した上でのことらしい。この宣言、1991年以来正式に発せられるようになったが、なんと昨年と一昨年は木枯らし宣言のないまま冬に突入してしまったようだ。

 

 この季節になると、山の幸はあふれんばかりに豊富に出回る。きのこ類、さつまいも、ぎんなん、里芋、栗、すだち、柿、ぶどう、りんご、そして新米。海の幸だって、秋鮭、秋鰹、秋刀魚、ししゃも、はや、ぼら、うなぎ、はたはた、伊勢エビなどなど、指が何本あっても数えきれない。ところで、今回の主役である霜にはいいところはなにもないが、“牛肉の霜降り”だけは絶品である。

 

 木枯らし吹きすさぶこれからの季節、新型コロナにインフルエンザも加わったツインリスクが心配されるようになる。しかし、寒いから、ウイルスが怖いからといって、引きこもるのは禁物である。秋の実りを存分にいただき、三密を避けながらしっかりと体力を養っていかなければならない。

                     (2020年10月24日 藤原吉弘)