土用

[エッセイ 663]

土用

 

 このところ、急にウナギの広告が増えてきた。言わずと知れた、ウナギの販売促進キャンペーン“土用丑の日にウナギを食べよう”の一環である。近来は、ウナギの幼魚であるシラスの不漁が続き、成魚は庶民にはとても手の届きそうにないレベルにまで値上がりしてしまった。それでも、キャンペーンは続けられ、それに応える人がいるのだから、やはり日本は平和な国なのだ。

 

 そんなことから、梅雨と入れ替わるように土用入りし、月末には「丑の日」がやってくることはかなりの人が知っている。ところが、それ以上の話になると、たいていの人はチンプンカンプンといったレベルにまで下がってしまう。そこで、この機会にあらためて土用について整理してみることにした。

 

 土用とは、五行説に由来する雑節上の特殊な期間を指す。土用は四季それぞれにあり、いずれも最後の18日間がそれにあたる。夏の土用は7月20日ごろから8月立秋の前日まで、秋の土用は10月20日ごろから11月立冬の前日まで、冬の土用は1月17日ごろから2月立春の前日まで、そして春の土用は4月17日ごろから5月立夏の前日までである。

 

 この土用の期間は、土の気が盛んになるとして、土を犯す作業や殺生は忌み嫌われるという。ただし、土用に入る前に着手したものは期間中でも大丈夫だそうだ。さらに、土用の期間中であっても、間日(まび)と呼ばれる特定の日にはこうした作業が許される。その日は土の神さまが天上に行き、地上にいないためだそうだ。その間日は、夏の場合は卯、辰、申の日、秋は未、酉、亥の日、冬は寅、卯、巳の日、そして春は巳、午、酉の日がそれに当たるそうだ。

 

 このように、土用の日は18日×4回で年間72日くらいあることになるが、とくに「夏の土用丑の日」は一年でも一番暑い日にあたる。そのため、夏ばて防止にはとくに気をつけようということになる。この日は、「う」のつく、うめぼし、うなぎ、うり、うどん、などを食べたり、風呂に柿の葉などの薬草を入れたり、土用灸をすえたりして体力の回復を図るといいそうだ。

 

 日常生活では、土用に由来するフレーズが散見される。土用布子に寒帷子=時節の用をしないもの、土用休暇=夏休み、土用波=夏の土用の頃太平洋岸に押し寄せる大波、土用掃き=土用中の煤払い、土用干し=虫干し、などである。いずれも夏の季節のものだが、ちょうどいい機会なので、秋、冬、そして春の土用についても関連するものやその根拠について考えてみてはどうだろう。

 

 なお、土用丑の日のウナギは、平賀源内がウナギ屋救済のために仕掛けた販売促進キャンペーンだったそうだ。ちょうどいい機会なので、そのキャンペーンに乗ってみるのも一興かもしれない。懐は、かなり?ちょっぴり?痛むが・・・。

                      (2023年7月23日 藤原吉弘)