ナンテン

[エッセイ 645]

ナンテン

 

 二十四節気の、大雪(たいせつ)について書いたときのことである。南天ナンテン)が、この季節の主役の一つであることに初めて気がついた。古くから「十二月の花」とも呼ばれ大切にされてきたようだ。そんな大きな存在なら、ぜひ写真にも納めておきたいと思いその気になって町内を探し歩いてみた。なんと、普段気づかないところでいくらでも出会うことができた。

 

 たしかに、この時期は真っ赤な実をたくさん付けているのですぐにそれとわかる。しかし、大きくても人の背丈ほどしかないので、平素はほとんど目立たない存在である。しかも、日陰に強いらしく、物陰などに植えられていることも多い。ただ、出会えたうちの数軒は玄関脇に植えられていた。いずれも和風建築で、伝統的な縁起をかついでのものと思われる。

 

 そこで、この植物についてあらためて考えてみた。やはり、ナンテンは日本人には古くからなじみの木だったようだ。和風の庭には必ずといっていいほど植えられていた。とくに、手洗いに隣接する場所には、それがつきものだったらしい。料理にも、引き立て役としてしばしば登場していた。日陰に強いこと、そしてその殺菌効果が重視されたためのようだ。

 

 ナンテンは中国原産の常緑低木だ。漢字で南天と書くのは、中国で南天燭とか南天竹などと呼ばれていたものがそのまま伝わってきたのだと思われる。ナンテンの実は乾燥させると咳止めになる。しかし、毒性があるので素人は手を出さないのが無難だといわれている。どうしても欲しければ、それに由来する「南天のど飴」というのが昔からある。

 

 若いころの記憶では、ナンテンは生け花にもたくさん使われていた。とくに、正月が近くなると、急に出番が多くなっていた。その佇まいが、松や竹と相性がいいこと、そして「難を転じる」という縁起物としての価値が評価されてのことであろう。この時期、赤い実を付けるという点でも、センリョウ(千両)やマンリョウ(万両)とともに重宝されたのではなかろうか。

 

 ナンテンにまつわる興味深い話がある。金閣寺の床柱には南天の木が使われているそうだ。そんなに大きくなるとは信じられないが、実際に存在するのだそうだ。もう一つ、人を戒める言葉として「ナンテン組」というのがある。宴会が終わったあと、いつまでも居残っている人たちのことだ。ナンテンの実が、最後まで枝から離れないことに擬えてそう呼ぶのだそうだ。

 

 いまわが国は、急激な人口減少に向けて、なんの展望もないまま崖っ淵に立たされている。せめてわが家族だけでもと思い、人生のナンテン組となって国難に貢献すべく日々健康増進に努めている。

                     (2022年12月23日 藤原吉弘)