申年

イメージ 1

[エッセイ 432]
申年

 今年は、十二支の9番目に登場する申年(さるどし)である。なんでも、サルとイヌは昔から仲が悪かったので、サルのすぐ後にイヌがくると具合が悪いだろうとトリが両者の間に入ったと伝えられている。そんなことから、干支の10番目はトリ、その次がイヌ、そして最後がイとなったという。

 一方、十干との組み合わせによる「十干・十二支」では、今年は60年周期の33番目の丙申(ひのえさる)にあたる。昭和31年生まれの人が、今年還暦を迎えることになる。まさに暦が還ってくるわけである。占いの世界では、丙申の年は「努力してきたことが形になってくる年」といわれている。

 暦の上で今年のアイドルとされているサルは、霊長目のうち、ヒト科を除いた哺乳類の総称である。原始的な原猿、中南米の広鼻猿、アジア・アフリカの狭鼻猿、そして類人猿の4つに大別される。ほとんどがオーストラリアを除く熱帯地方に棲む。ニホンザルはその北限の種といわれている。ヨーロッパにはいなかったので、その地域の古典的な文化にサルは登場しないそうだ。

 サルの中でもニホンザルは、英知の面でこの種の頂点に立つ優れた生き物である。本州最北端の下北半島にまで広く分布し、風雪に耐えながら命を繋いできた。熱帯中心に繁栄をつづけてきた動物にしては、ニホンザルは寒さに強く、欧米では別の種類ではないかとさえ考えられていたという。

 ところで、サルというと日本ではいろいろなお話に登場する。「桃太郎」、「猿蟹合戦」などなど、どちらかというと悪知恵の働く悪役が多いようだ。また、サルは格言としてもいろいろな角度から引用されている。「猿の尻笑い」、「猿も木から落ちる」など、こちらもまた枚挙にいとまがない。

 こうした中でも、「見ざる、聞かざる、言わざる」の三猿は私たちが生きていくうえで多くの示唆を与えてくれる。この格言が目に見える形で人々に訴えているのが、日光東照宮の神厩舎にある左甚五郎の三猿の彫刻である。自分に関係のない物事や他人の欠点などについては、一切無関心な態度をとり、それについて批判的な言葉を述べないという戒めのようだ。

 その意味するところと、“ざる”という語呂から日本独自のものと思われがちだが、彼らは”Three wise monkeys”とよばれ、万国共通の社会生活の知恵として世界各地に存在するようだ。しかしいまは民主主義の世の中、もっと積極的に世間と接してもいいのではなかろうか。

 申には病や厄が去るといわれ縁起がいいとされている。「申年に赤い下着を着ると病が治る」、「申年に贈られた下着を身につけると元気になる」などともいわれている。サルにあやかって、今年一年無病息災に過ごしたいものだ。
(2016年1月3日)