胃カメラ体験記

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[エッセイ 286]
胃カメラ体験記

 会社を退職して以来、年一度の健康診断は近所のかかりつけの内科医院で受けてきた。その年中行事は市の主催によるもので、受診した医院は市の指定病院の中から選んだものである。

 ところが、その医院には胃のレントゲン検査設備はなかった。そのため、心ならずも胃癌の検査だけは何年間も受けないままになっていた。だんだん心配が募ってきたので、昨年はレントゲン検査設備のある別の医院で受けた。診断の結果は、軽度のメタボを指摘されただけだった。

 今年も、市から健康診断を始めるので期間内に指定の医院で受診するようにとの案内が届いた。実は以前から、行きつけの医院に胃カメラの設備があることは知っていた。しかし、市の指定する検査方法の中に胃カメラは含まれていなかった。費用が高額になり、健診予算では負担しきれないためらしい。

 先月、かかりつけのその医院を訪問したとき、胃の検査について相談してみた。その医師からは、胃に違和感があるのなら、健康保険で胃カメラによる検査をやりましょうという提案があった。胃カメラは鼻から入れる新しいタイプなので、受診者の肉体的な負担は少ないという。

 予約した当日、朝食抜きでその医院を訪ねた。さっそく血圧をチェックされ、鼻の奥に麻酔薬を注入された。しばらくすると、そこにカメラのついた管が差し込まれていった。モニターテレビが2台あり、そのうちの1台は受診者が見られるよう計らったものである。カメラつきの管は麻酔の利いた鼻から入れられているので、たいした苦痛はなく医師との会話も可能であった。

 カメラは、声帯から食道を通って胃へ、さらに一番奥の十二指腸まで到達した。自分自身の体の内部なのに、なにか別世界のことのように思われる。ピンクに彩られた粘膜が実にきれいだ。ときおり、飲み込んだ唾液が勢いよく流れていく。チェックは帰りにゆっくりやるという。胃に空気を送り込み、ヒダを伸ばしながら丹念に調べていった。

 胃の底部に炎症を起こしている部分があった。さらに胃の上部には、ポリープも一つ見つかった。念のため、その2カ所を摘まみ取り、細胞検査をすることにした。少し血が出たが傷みは感じなかった。検査は30分で終わった。

 喉に麻酔がかかっているので、2時間くらいは飲食を控えるようにと注意された。この日の昼食は流動食、夕食は消化のいいものにするように、そして翌日からは普通の生活に戻していいということであった。

 摘まみ取った細胞の検査結果が分かるのは2~3週間後だそうだ。結論は、その検査はもともと必要ないものだったということになるはずである。
(2010年7月10日)