発泡酒

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[エッセイ 44](既発表 5年前の作品)
発泡酒

 今日の新聞に、「ビール・発泡酒市場しぼむ」という記事が出ていた。ビールと発泡酒の両方を合わせた昨年の出荷量は、前年比6、3%の減少となった。発泡酒増税や冷夏の影響はあるが、構造的にその需要が減退している面も考えられるという。

 発泡酒は、ビールの税金があまりにも高率であることから、いわば節税商品として開発されたものである。確かにその税率は小売価額の46%(酒税41、7+消費税4、8)にも達しており、ビールを飲むのは税金を飲むようなものというのはけっして誇張ではない。一方、発泡酒の税率は増税前で30%強(酒税25、9+消費税4、8)であった。政府は早速その差に目をつけ、2003年5月の酒税改正によって発泡酒の税率を約5ポイント強引き上げた。

 ビールと発泡酒の区別は、原料に占める麦芽の比率によって決められる。ビールは67%以上、発泡酒はそれ未満という定義である。酒税の税率は、麦芽の比率によって50%以上、25%以上、25%未満の三段階に分かれている。麦芽50%以上のものが一番高くビールと同じ、反対に一番低いのが25%未満のものとなっている。現在市販されている発泡酒麦芽比率は当然25%未満である。

 ビールのうまさは麦芽の量に比例するとまでいわれているので、この難問を乗り越えるのは容易なことではなかったはずである。それに最初に挑戦したのがサントリーである。1994年10月、業界に先駆けて「ホップス」を市場に投入した。発泡酒は、サントリーやサッポロといったこの業界における弱者が、起死回生の切り札として、それも一種のすき間商品として開発したものである。

 そのたゆまぬ努力が折からのデフレの潮流に乗って消費者に支持されていると見るや、大手2社がブランド力に物を言わせて参入してきた。市場は活性化し、その味はさらに磨きがかけられた。2003年には、発泡酒の出荷量がついにビールを上回るという本末転倒の流れが決定的となった。

 この激しい競争は単に魚同士の争いだったのか、あるいは自分の足をむさぼり喰う蛸の集団だったのか。気が付けば、ビール・発泡酒市場は数量ベースで6、3%も縮小した。金額ベースではそれに倍する縮小幅となってしまった。はたして、漁夫の利を得たのは我々庶民だったのだろうか。

 それにしても、メーカーが智恵を絞り、心血を注いで開発し育ててきたすき間商品を、税法という凶器で簡単に叩き潰してしまっていいのだろうか。ビジョンに欠けるつぎはぎだらけの政策は、せっかく芽生えはじめた新しい産業までも根絶やしにしかねない。
(2004年1月16日)