体験入学

イメージ 1

[エッセイ 177](新作)
体験入学
 
 どこか、ランドセルを売っている店はないだろうか。あの大型スーパーならあるかもしれない。いまから行ってみようよ。電話で確かめてから出かけたほうがいいよ。周辺の大型スーパーなど心当たり6店に電話をしてみたが、こんな季節外れにランドセルを置いている店などあるはずもなかった。

 ニューヨーク在住の子息が、ビザ更新のため家族を連れて一時帰国した。彼の上の娘は6歳になる。早生まれなので、日本にいれば小学校1年生である。かの地の入学時期はこちらより5ヵ月ずれて9月からとなる。せっかく日本に滞在しているのだから、こちらの小学校に体験入学させてやりたい。

 子息の母校にお願いし、翌日から夏休みに入るまでの2週間弱、体験入学させてもらうことになった。背中には、ディズニーのキャラクターのついたリュックサックを背負わせることにした。

 子息の、下の娘は5歳になる。彼女は8月生まれなので、幼稚園に通っているとしたら年中組になる。彼女も、子息がお世話になった幼稚園で無理を聞いていただくことになった。

 30年ぶりに訪れた子息は、園内の建物や教室はもとより、クラスの名前まで当時のままなのに驚いていた。施設は大切に手入れされ、古さはまったく感じさせない。そして、これもまったく変わっていない制服・制帽、それにショルダーバッグまで、無償で貸与してくださることになった。
 
 わが家から、その小学校や幼稚園までは徒歩で15分くらいはかかる。あいにく梅雨の最中である。慣れない道を、傘をさして歩かせるには危険が多すぎる。かくして、1日4往復の、おじいちゃんの送迎車が大活躍することとなった。

 「楽しかったア」「今日はねエ、ダレダレちゃんとお友達になれたの!」。帰宅するなり、こんな言葉が2人の口から異口同音に飛び出した。子供心に、せいいっぱい気遣いしているようである。しかし、それも受け入れてくださった小学校と幼稚園の、キメ細やかな心遣いがあってのことである。

 日本が国際化して久しい。外国で暮らす日本人の子供たちも、生まれた時から国際人になっている。外国人に違和感を持つこともなく、もちろんガイジンに臆することも知らない。その一方、帰国子女の問題は有効な手立てを見出せないまま浮んでは消えている。

 国際人と無国籍人とは本質的に異なる。日本人としてのアイデンティティの確立があって、はじめて立派な国際人になれる。わが家の孫娘たちが出会ったような素晴らしい体験が、外国に暮らす日本人の子女たちみんなにとって、いっそう身近なものになることを期待したい。
(2007年7月16日)

写真は、孫娘がお世話になっている小学校